1章 会うは別れの始め

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授業開始を告げるチャイムが鳴り、同時に先生と思われる人が教室に入ってきたため、谷君にとの会話を切り上げ、席に戻った。 「はいはい、HRしますよ~」 教壇には、小柄でぽっちゃりとしたニコニコした50~60代の男が立っていた。 「はい、じゃあね、HRを始めますね~。まずはここに居る皆さんは無事にね、2年生に上がれたということで、おめでとうございます」 ゆったりとした話し方に、教室の雰囲気もほんわかしたものになっていた。 「えー、知っている人が多いと思いますけどね、2-2の担任になります、柏木(かしわぎ)です、1年間よろしくお願いしますねぇ。はい、じゃあ、皆さんにも一言ずつ自己紹介してもらいましょうかね、じゃあ、青山君から」 「げ、いつも俺からなんだよ!」 「青山の姓を持つ者の定めだ、受け入れろ」 出席番号一番の青山君の嘆きでクラスに笑いが起こる。 親しみやすいクラスの雰囲気に、少し心が軽くなった。 誰一人として知人がいない環境に、知らず知らずのうちに緊張していたのかもしれない。 「はい、最後に山田君。山田君は編入生だったね」 「あ、はいそうですね。えと、山田暦といいます。山田の『山』に山田の『田』にカレンダーの暦です、よろしくお願いします」 「山田の説明そのままじゃねーか」 「なんてわかりやすいんだ…天才か?」 「よろしくねー!」 2年生からという中途半端な時期の編入というイレギュラーにも関わらず、温かい視線や、友好的な発言に安心感とこみ上げる感情に思わず心からの笑みがこぼれてしまった。最近は情に脆くて敵わん。 「っふふ…」 「「「…………」」」 「…?」 妙に生まれた沈黙を破るように柏木先生がぱん、と手を叩く。 「はい、これで皆さんの自己紹介が終わりましたのでね、是非1年間仲良くしていただいて、実りのある学園生活にしてほしいと思います。じゃあ、最後に連絡事項だけ伝えて、今日は終わりにしましょうね」 その後、柏木先生は5分ほど話をしてHRを終了し、放課後の自由時間となった。 「暦くんっ!」 「巡、紋。あ、谷君も」 配布されたプリント類をまとめていると、支度を終えた巡、紋、谷君が俺の席に集まってきた。 「頼仁と知り合いだったのっ?」 「さっきの入学式で席となりだったんだ。そこで仲良くなった、ね、谷君」 「うん、そうだね…」 「そうなんだっ、頼仁は去年も同じクラスだったんだよっ」 「そうさ、オレ達は運命共同体だったな!」 「すごい偶然だね」 「まぁ、基本的には3年間で組が変わることはないんだ!」 「そうなんだ」 思いもよらぬ繋がりがあらわになったところで、帰り支度を再開すると、廊下から紋を呼ぶ声が聞こえた。 「紋殿ー、部活行きますぞー」 「あぁ、今行くぞ!」 「すまない、この後、部活の集まりがあるんだ。先に失礼する!」 「うん、いってらっしゃい」 紋は軽く手を振りながら廊下で持つ2人の友人のもとへ走っていった。 「紋はね、漫画研究部なんだっ」 「そうなんだ、巡は?」 「ボクは茶華道部だよっ」 「おぉ、なんか似合うね」 「ふふっ、ありがとう!」 時刻は11時45分。そろそろ約束の時間になるな。 「巡と谷君は今日は部活?」 「うん、僕もそろそろ行こうかな…」 「ボクは1回寮戻る!」 「そっか、俺もこの後用事あるから、ここでばいばいだ」 「うん、バイバーイ!」 「また明日…」 「うん、じゃあね」
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