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「月比古ー!!」
第二体育館に到着してすぐ、体育倉庫の前に集まる生徒を見つけ、梅君は少し離れたところにいた月比古君達の元へ走っていった。
梅君に続いて、俺も小走りで彼らの元へ駆け寄った。
「大丈夫ー!?心配したんだよー!」
「…うん」
「桜、今どういう状況??」
「梅たちが来るちょっと前に風紀が来て…」
「あれ、紋は?」
「…意識不明で、保健室に運ばれた…」
桜君の言葉に、スッと全身の血の気が引く感覚に襲われた。
「なんで…」
「血が出てるとか大きな外傷はなさそうだったよ。あと──」
「保健室行ってくる。梅君、2人の傍にいてあげて」
「えっ、ちょっとー!」
梅君の返事を聞くより早く体育館を飛び出し、来た道を引き返す。
廊下を走ってはいけないという校則などは頭から抜け、頭の中は紋の事でいっぱいだった。
紋の無事を願いたいのに、頭の中を駆け巡るのは最悪の事態で。
忘れていたはずの感覚が呼び起こされる。
悲しみでも、寂しさでもない、何かが抜け落ちるような感覚。
気づいた時には、もういなくなっていた。
実感は一向に湧かないのに、自分の体や頭が他人のものになったように落ち着かない。
もう二度と味わいたくはないと思っていた"それ"が全身を支配していった。
──────────────────
卯月 梅 side
「行っちゃった…」
「すごいスピードだったね」
「…桜、紋が意識不明っていう割に落ち着いてない?」
「うん、意識不明っていうか、気絶?って感じみたい」
「気絶ー?」
「紋くんの頭の上から段ボールが落ちてきたらしいんだけど、全部空っぽだったみたい!」
「は?じゃあなんで気絶?」
「びっくりしたんじゃない?」
「…はぁ~。こっちがびっくりしたよー!」
「ね、僕も最初は驚いたんだー」
「…それ、山田暦に言ってやった方が良かったんじゃないの?」
「あ…」
…まぁ、皆無事そうでよかった。
ぱっと辺りを見まわした感じ、他にも怪我人はいなそうだ。
倉庫の前には数人の風紀委員と、彼らと話をする生徒たちがいた。
「桜、あれって…」
「うん、そうなんだよね…」
風紀の聴取を受ける生徒をよく見ると、見覚えのある顔があって思わず眉間にしわが寄る。
彼らは、継くんの親衛隊だ。
4人のうち3人は見たことがあるから、残りの1人は1年生かな。
という事は、今回の件は、会計親衛隊による『制裁』だったというわけだ。
なんでか分かんないけど、継くんの親衛隊にはちょっと過激な人が多い。
それでも、ここまで大きな事件を起こしたことはなかった。
それはきっと親衛隊発足時の誓約を、継くんがしっかり守っていたからで。
『親衛対象となる生徒は、親衛隊員の統制を行い、彼らの行動に責任を負う』
この誓約を守ることで、親衛隊をある程度自由に動かせるのだ。
誓約、というと堅苦しく感じるが、実際はそこまで大変じゃない。
親衛隊に入るくらい好きなんだから、そういう生徒は僕達のお願いは大抵聞いてくれるのだ。
あの4人が継くんのお願いを聞かなかったのか、そもそも継くんがお願いしなかったのかは分からない。
どっちでも、風紀は今回の件の責任は継くんにもあると判断するだろうな。
「君ら、何やってるの~?」
この状況に似合わない間延びした声が体育館に響いた。
全員が話を中断し、声のした方を振り向く。
君ら、と呼ばれたであろう生徒達が小さく息を呑む音が聞こえた。
「か、会計様…?」
「どうして、こんなところに……」
4人の生徒は目に見えて動揺していた。
職員室の前で会ったけど、継くんもここに向かって来たのかな。
「ち、ちがっ、違うんです!!」
「ん~?なにが~?」
「これは、会計様の為に、やった事で…」
「俺、そんなこと頼んでないよねぇ」
震えながらも、継くんに対して弁明しようと言葉を発する生徒を、歯牙にもかけずに彼は淡々と言い返した。
「で、ですが、会計様は…!」
「僕達は、貴方の親衛隊で──」
「あのさぁ」
「ヒッ…」
めげずに続く生徒達の言葉を、苛立ちを含んだ一回り大きい声で遮ると、彼らは委縮して更に目に涙を浮かべた。
継くんはため息をつくように吐き捨てた。
「…迷惑なんだよねぇ、そういうの。俺のため、とか言って好き勝手するなら…
親衛隊なんて、解散しちゃおっか」
継くんの突然の解散宣言に、この場にいる全員が困惑した。
中でも、当事者に当たる親衛隊の彼らは誰よりも驚きを露わにした。
「え…」
「そ、そんな…」
「解、散…」
「はいはい、一旦そこまでっすよ」
ぱんぱん、と手を叩く音がする方を見ると、風紀委員の和地君が体育館の入り口から入ってきた。
「会計さん、親衛隊の件は一旦保留で。まずは有馬の件から対処させていただきますっす。皆さん、風紀室までご同行願いますよ」
和地君が来たことで、親衛隊の問題は一旦持ち越しとなった。
親衛隊の4人と月比古、桜は事情聴取のため、風紀室へ連れていかれた。
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