9章 明鏡止水

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「…っ、まじで、良かったぁ…」 「くそっ、恥ずかしい限りだ…!!」 全力で廊下を走って保健室へ向かうと、意識不明と聞いていた紋は既に目を覚ましており、それどころかぴんぴんしていた。 頬の腫れと背中の打撲はあるものの、命の別状はないそうだ。 紋の意識不明、もとい気絶は「見上げたらダンボールがすぐそこまで迫っていて気づいたら保健室だった」だそうだ。 ダンボールが空で本当に良かった…。 「しかし、暦氏の開口一番『紋は生きてますか!?』には驚かされたな」 「意識不明って聞いてたから…!」 「桜氏も大げさだな…。病院に運ばれてない時点で暦氏ならそこまで重症じゃないと気づきそうだがな!」 「本当に焦ってたんだって…。あ、梅君だ。…月比古君と桜君は風紀室行ったって。梅君はこっち向かってるらしい」 「そうか、あの2人は取り調べだろうな。オレも後で来るようにと言われている」 「そっか。…え」 「どうした?」 「弥生会計、親衛隊解散宣言したらしい…」 「は!?」 紋の手当てが終わる頃、梅君は保健室に到着した。 早速紋の気絶をいじっていたが、実際のところは彼が元気そうで安心しているように見えた。 3人で風紀室に向かっている途中、梅君が今回の件の一部始終を話してくれた。 一言でいえば、「弥生会計と仲の良い月比古君に親衛隊が嫉妬した」。これが原因という事だ。 親衛隊が、月比古君が会計に近づかないように、彼に忠告するために呼び出したのだとか。 確かに月比古君と会計はよく一緒にいるし、実際それをよく思わない人がいるという噂も聞いたことがある。 親衛隊の動機も、彼らなりに筋は通っているだろう。 …月比古君を傷つけていい理由にはならないけど。 また、親衛隊が自分たちの親衛対象に近づく生徒に対して、過激に対抗することを「制裁」というのだと梅君に教えてもらった。 本来の「制裁」の意味とは異なるのは、規則が親衛隊独自の物だという事と、勝手にそれを親衛隊以外の人に適応させて罰する事。 つまり、制裁というのは言ってしまえばいじめや暴力と同じ。 ルールを盾に、正当化しようとする者が稀に現れるという事だ。 今回の件で、会計の親衛隊の4人はもちろん、責任問題的に会計自身も何らかの罰を受けるようだ。 そして、話の話題は段々と弥生会計の解散宣言に移っていった。 「今まで、親衛隊が解散になった事ってあるの?」 「僕は見た事ないかも!元々親衛隊いない嶺ラン上位者もいるけどねー!」 「確か、水無月美化委員長とかそうではなかったか?」 「そうなの?」 「うん、あと霜月くんとかそうだよ!」 「あぁ、いなそう…。てか、解散って簡単に出来るものなの?」 「うーん…。いきなり解散っ、とはならないと思うよ!継くんと、親衛隊が納得して、風紀が許可したらオッケーかな??」 「そういうものか」 「…」 「暦氏?どうかしたのか?」 「…例えばなんだけどさ。梅君が『解散したい』って言ったら親衛隊の生徒はすぐ納得する?」 「んー…、どうだろう。みんな僕の事好きでいてくれてるから、解散に反対すると思う!」 3人で話しているうちに、風紀室の前まで到着した。 「では、取り調べを受けに行ってくるな!」 「僕は風紀委員と月比古の監視を今後どうするか、話し合ってくる!」 「いってらっしゃい、外で待ってるね」 風紀室の扉に消えていく2人を見送った数秒後、入れ替わるように風紀室から一人の生徒が出てきた。 「あれ…?」 「…あなたは、先日の…」
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