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「山田暦と申します」
「山田君。貴方も風紀委員に用事ですか?」
出てきたのは、先日廊下で弥生会計と言い合っていた人物、韮崎先輩だった。
「友達が中にいて。取り調べが終わるのを待ってます」
「取り調べ…。もしかして、うちの親衛隊員が起こした問題の関係者ですか…?」
「まぁ、そうですね…。関係者というか、被害者というか…」
韮崎先輩は弥生会計の親衛隊長だ。
今回の月比古君行方不明事件について、現段階でどれくらい把握しているのかは知らないが、いずれは全てを知ることになるだろう。
俺は月比古君と友達である事、今回の件に一応関わっている事を掻い摘んで話すと、韮崎先輩は驚いたように目を丸くしていた。
「なるほど、それでここにいらっしゃったのですね」
「はい」
「探るようなことを言ってすみませんでした。…という事は、会計様が親衛隊を解散すると仰ったのも?」
「聞きました」
「そうですか…。嘘では、ないのですね」
嘘だと思いたかったのだろうか、落ち込んだようにぽつりと言葉を溢した。
「先輩は解散の話をするためにここへ?」
「えぇ。会計様がいらっしゃるかと思って来てみたのですが、どうやら自室の方に風紀委員長が赴く形で聴取が行われているようなのです」
「委員長が直々に…ですか」
「はい。今回の件、会計様が直接関わっていないとは言っても、責任的な問題があるでしょうし。なにより、本題は解散宣言の方でしょうね…。この学園の歴史を顧みても、なかなかある事ではありませんから」
梅君曰く、そもそも解散するくらいなら初めから親衛隊を許可しない人が多いらしい。
学園の注目の的である役職持ちの“親衛隊解散”なんて、大スクープだ。
ある事ない事風潮されるのは目に見えている。
「先輩は、この後弥生会計の元へ?」
「えぇ、そのつもりですが…。会計様が私と話してくれるかどうか…。話して下さったとしても、私ごときでは、考えを改めてもらうのは難しいでしょうね…」
以前韮崎先輩と出会った時の事を思い出す。
あの時の弥生会計は、先輩の目も見ず、ただ言われてる事を突き放しているように見えた。
先輩は”会計様は忙しいから”と言っていたが、どう見ても故意にそういう態度を取っているようにしか見えなかった。
あの態度は、見ていて決して気分の良いものではなかった。
「…あの、先輩。もし、よろしければなんですけど…」
ガチャ、とドアの開く音に顔を上げると、弥生会計の部屋から一人の男が出て来た。
「神無月委員長」
「韮崎か。悪いな、長い間時間をもらって」
「いえ、お気になさらず。必要な事でしょうから」
「助かる。…何故おまえがここにいるんだ?……山田」
「…付き添いですかね?」
部屋から出てきたのは千隼君、もとい風紀委員長だった。
俺の顔を見て、なにか言いたそうに眉間に若干しわを寄せた。
…実際、言われましたけども。
「お話は終わりましたでしょうか」
「あぁ」
「山田君、では行きましょうか」
「はい、先輩」
『俺も一緒に弥生会計とお話しさせてくれませんか』
弥生会計のもとへ行こうとする韮崎先輩に、俺はそう声をかけていた。
断られるかなと思ったが、意外な事に韮崎先輩は快諾してくれて、共に弥生会計のもとへ行くことになった。
会計の部屋へ向かう道中、韮崎先輩に何故快諾してくれたのかを問うと「私だけでは取り合っていただけなさそうですし、何よりもう手段を選んでいる場合ではないかと思いまして」と、良い笑顔つきで返ってきた。
解散宣言を聞いて、落ち込んでいるように見えていたが、そうでもなかったのだろうか。
意外としたたかというか…、敵に回したくないタイプだなと思いました。
未だに考えのまとまっていない頭のまま、扉をノックして中へ入っていく韮崎先輩の後を追った。
…千隼君の方から感じる只ならぬオーラには、見て見ぬふりをした。
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