9章 明鏡止水

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「「失礼します」」 「韮崎かぁ。…あれ~、編入生くんも一緒だぁ。さっきぶりだねぇ。どうしたの~?」 弥生会計はソファに座って紅茶を飲んでいた。 ローテーブルの上には、書類やファイルがいくつかあったが、中は見えないようになっていた。 さぁ、どうしようか。 部屋に入ったはいいものの、何を話せばいいのか上手くまとまっていない。 きっと、全てが弥生会計の計画通りなんだろう。 親衛隊というこの学園独自のシステムや、抜け駆け禁止の暗黙のルール。 親衛隊持ちに対して、多くの生徒が伝えたくても伝えられない気持ちを抱えている現状。 梅君や桜君は、そういった生徒の思いが爆発しないように、定期的にお茶会や勉強会を開催している。 皐月君も、信頼関係を築くために仕事を与えたりと、生徒達が遣る瀬無い思いをしないように図っていると聞いた。 親衛隊、というシステムに疑問を抱くことは多いが、対象者と親衛隊員の間にはある種、信頼関係があるのは事実だ。 それによって救われる生徒も少なくはないのだろう。 対象者が、1人の生徒に執着する姿を見せれば、親衛隊がどんな感情を抱き、どんな行動を起こすのかは、俺にでも分かる。 そして、その結果として、対象者自身に責任が問われることも。 きっと弥生会計もすべて分かった上で今回の事件に暗躍している。 弥生会計は親衛隊の解散の正当な理由として、今回の事件を挙げるのだろう。 親衛隊の解散を提案したところで、当の本人達が頷かないのは分かりきった事だ。 今回の事件と、解散宣言については、風紀と親衛隊が協議の元で処遇は決まっていくのだろう。 そこに口を挟むつもりはない。 俺でも会計の意図に気づけたのだ、千隼君が気づかないはずがない。 「編入生くん~?黙っちゃってどうしたのさぁ~」 弥生会計には、はなから親衛隊に寄り添うつもりがなかった。 生徒会役員に選ばれるような男だ、彼が親衛隊の気持ちに気づかないはずがない。 それに対して俺は怒っているのだろうか? それとも、月比古君や紋を巻き込んだ事に怒っている? …違うな。 「俺、貴方の事が知りたいです」 「…は?聞き間違いかなぁ。もう一回言ってくれる~?」 「え、貴方の事が知りたいって言ったんですけど」 会計は手に持ったままだったティーカップを机に置いた。 「韮崎、何この子ぉ」 「私に聞かれましても…」 「君が連れて来たんでしょ~」 「あ、すみません。俺が韮崎先輩にお願いして勝手について来ちゃっただけなので」 会計は呆れたように息をつきながら、だらんとソファの背もたれに体を預けるような大勢になった。 「俺の事が知りたい、ねぇ。好きなタイプとかぁ?」 「いえ、それはどうでもよくて」 「っ、じゃあ何が知りたいのかな~?」 「俺には、弥生会計が赤ちゃんに見えます」
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