1092人が本棚に入れています
本棚に追加
「「失礼します」」
「韮崎かぁ。…あれ~、編入生くんも一緒だぁ。さっきぶりだねぇ。どうしたの~?」
弥生会計はソファに座って紅茶を飲んでいた。
ローテーブルの上には、書類やファイルがいくつかあったが、中は見えないようになっていた。
さぁ、どうしようか。
部屋に入ったはいいものの、何を話せばいいのか上手くまとまっていない。
きっと、全てが弥生会計の計画通りなんだろう。
親衛隊というこの学園独自のシステムや、抜け駆け禁止の暗黙のルール。
親衛隊持ちに対して、多くの生徒が伝えたくても伝えられない気持ちを抱えている現状。
梅君や桜君は、そういった生徒の思いが爆発しないように、定期的にお茶会や勉強会を開催している。
皐月君も、信頼関係を築くために仕事を与えたりと、生徒達が遣る瀬無い思いをしないように図っていると聞いた。
親衛隊、というシステムに疑問を抱くことは多いが、対象者と親衛隊員の間にはある種、信頼関係があるのは事実だ。
それによって救われる生徒も少なくはないのだろう。
対象者が、1人の生徒に執着する姿を見せれば、親衛隊がどんな感情を抱き、どんな行動を起こすのかは、俺にでも分かる。
そして、その結果として、対象者自身に責任が問われることも。
きっと弥生会計もすべて分かった上で今回の事件に暗躍している。
弥生会計は親衛隊の解散の正当な理由として、今回の事件を挙げるのだろう。
親衛隊の解散を提案したところで、当の本人達が頷かないのは分かりきった事だ。
今回の事件と、解散宣言については、風紀と親衛隊が協議の元で処遇は決まっていくのだろう。
そこに口を挟むつもりはない。
俺でも会計の意図に気づけたのだ、千隼君が気づかないはずがない。
「編入生くん~?黙っちゃってどうしたのさぁ~」
弥生会計には、はなから親衛隊に寄り添うつもりがなかった。
生徒会役員に選ばれるような男だ、彼が親衛隊の気持ちに気づかないはずがない。
それに対して俺は怒っているのだろうか?
それとも、月比古君や紋を巻き込んだ事に怒っている?
…違うな。
「俺、貴方の事が知りたいです」
「…は?聞き間違いかなぁ。もう一回言ってくれる~?」
「え、貴方の事が知りたいって言ったんですけど」
会計は手に持ったままだったティーカップを机に置いた。
「韮崎、何この子ぉ」
「私に聞かれましても…」
「君が連れて来たんでしょ~」
「あ、すみません。俺が韮崎先輩にお願いして勝手について来ちゃっただけなので」
会計は呆れたように息をつきながら、だらんとソファの背もたれに体を預けるような大勢になった。
「俺の事が知りたい、ねぇ。好きなタイプとかぁ?」
「いえ、それはどうでもよくて」
「っ、じゃあ何が知りたいのかな~?」
「俺には、弥生会計が赤ちゃんに見えます」
最初のコメントを投稿しよう!