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大輝とカフェでサボり倒した。 シロのキスを見たせいで徹夜だった俺は、ゲームに没頭して相手をしてくれなくなった大輝の前ですっかり眠り込んでいたんだ。 目を覚ました時には雨は止んでいて、長い悪夢を見てたんじゃないかとさえ思うほど空は晴れていた。 もうすっかり桜なんて散って、緑の葉がさっきまでの雨を弾いている。葉や枝を伝ってポタポタ落ちる雫を見つめて考えた。 花弁はどこへ行ったんだろう。 俺のシロは…誰と居るんだろう。 「お、起きた?授業出る?5月入ったら末にはレポートの提出しなきゃだしなぁ。中間いつだっけぇ」 机に突っ伏していた俺が上半身を起こしたのを見て大輝が言った。 『ぅゔ〜ん…末か…6月頭じゃねぇの?』 俺はグゥーンと両手を突き上げて背伸びした。 テーブルにはサンドイッチの皿が3枚もあった。 『おまえさぁ…その細い身体のどこに3皿分のサンドイッチしまうわけ?』 俺は眉間に皺を寄せながら呟いた。大輝は細身だけど大食感だ。知ってはいるもののうたた寝の間に3皿行かれると流石に驚く。 「黒ちゃんと違って頭使うから腹減るんだよねぇ、フフ。」 『あぁ?何か言ったかぁ?』 「いいやぁ〜なぁ〜んもっ!で?授業は?おまえ行かない?俺は出るぞ?」 俺はテーブルのサンドイッチの皿を3枚重ねて、向かいで立ち尽くす大輝を見上げた。 『俺…出ないわ。悪りぃ』 重ねた皿とリュックを手に食器の返却口に向かった。 「何かあったら連絡しろよ〜…ノート取っとくから」 背中に心配する友人の声。 俺は頭の上にピースサインを作って乗せると、指をクイクイっと曲げて見せた。 タバコが吸いたくて構内を出る。 ガラス張りのカフェを出た時点から感じていた蒸せるような雨の匂いが気分を逆撫でした。辺りを歩く人は濡れた傘を小脇に邪魔そうな顔をしながら歩いてる。 全くもって俺は何をしているんだか…。 ポケットの携帯を取り出して画面をタップする。 大輝にLINEでさっきの写真を送って欲しいと頼んだ。 返事はすぐで、添付された写真を見る前にタバコに火を付けた。 ジジっと先が燃えて小さな音を立てる。 吐き出した紫煙が溜息とともに広がった。 歩道の隅に寄って、携帯を見直す。 送られて来た写真はどの角度から見てもシロだった。 違ったのは…シロには首に小さなホクロがある。それくらいしかない程、そっくりだった。 『はぁ…それで?鈴野はシロを…代わりにするつもりかよ』 俺は気分が悪くなってタバコを足元に投げ捨てた。 小さな水溜りにジュっと音を立てる。 踏みにじって消し損ねた苛立ち。ゆっくり顔を上げた歩道の先に、白い小さなカフェから出てきた…シロの背中を見つけた。 隣りにはスラッと背が高い男がシロの肩を抱いて水溜りを避ける様誘導する。 そんな紳士で優男な振る舞いを目の当たりにして、俺はギリっと唇を噛み締めた。 鈴野を見上げて微笑むシロは朝の鈴野に向ける表情とは随分違って見えた。 キスをされ、ぎこちない関係になり、蟠りを作った状態は二人を引き離すと思っていた。だって、あの時…シロは俺の腕に縋って隠れたじゃないか。鈴野を拒んだじゃないか。 頭はグツグツと煮えたぎるようにストレスを感じていた。 二人の背中がどんどん小さくなる。 大学とは離れて行く二人を…俺は立ち尽くして見つめていた。 追いかけたい…連れ戻さなきゃ…早く!早くっ!! 気付いたら、二人はもう視界に映らなくて、俺の足は一歩も動けなくて…知らぬ間に涙が頰を伝った。 シロが…好きでどうしょうもない。 好きで好きで好きで…どうしょうもない。 思えば思うほど、俺は臆病になって… ただ苦しくて、途方に暮れた。 そんな俺は2人で住むマンションに帰るしかなかった。 ダラシなく水を含んだ靴を脱ぎ捨ててダラダラと廊下を歩く。シロの部屋の前を通り過ぎてリビングの隅にあるダイニングテーブルに鍵を置き、手にしていたリュックを椅子に掛けた。 そのままリビングのソファーに身を投げる。 シロはあの後どこへ向かったんだろう。 あんな風に鈴野に微笑んで…アイツと何をするんだろう。 俺は見上げた天井に溜息を吐いて、ケツのポケットから煙草を出した。 口に咥えた煙草の先にライターの火をかざす。 スッと吸い込んだと同時に火が付いて、ユラユラ煙りが立ち込めた。 白い妖艶なカーブのその煙りにシロを重ねる。 『抱きたいなぁ…好きだよ…俺…おまえが好きだ。』 フゥーッと優しく吐いた煙りに呟いた。 シロは帰らない。 俺は煙草を咥えてジーンズを引き下ろした。 ローテーブルの隅に置かれた灰皿に一口吸った煙草を捻じ込んでソファーに身を沈める。 自分の熱を緩く握り込んだ。 シロが俺に額を押し付ける姿を…料理する時に隣から見えるうなじを…風呂上がりのピンクに染まった肌を…俺の唇が掠める程度に触れた耳の感触を思い出していた。 目を閉じて、熱に絡めた手を上下させる。 『ハァ…ハァ…んっ!…ハァ…ぁ…くっ…そっ!』 テーブルのティッシュを慌てて引き抜いて熱を覆った。 『ハァ…っふ…ふふ、ハハ…何やってんの?俺…』 イッたくせに…全然満たされない。 全然…満たされないよ、シロ。 ソファーから身体を起こして、ティッシュでソイツを処理するとジーンズを引き上げた。 丸めたティッシュの存在が虚し過ぎて泣きそうだった。誰でもいいからこの欲望をぶち込んだ方がいいのかも知れない。 ポンコツと名乗るのさえ乏しい理性はもうここにないような気がした。 シロが帰ったら、俺は部屋に鍵を掛けて閉じ籠もらないとならない。 そうじゃないと…もう、何も我慢出来ない。 おまえを…どうにかしてしまいそうだ。 頭を抱え込んだ俺が見るのは、夢じゃない。 幼い頃からのリアルな思い出だ。 俺の判断がミスを犯せば…俺達の今までは全て消えて無くなってしまう。 俺はシロに拒否されてしまったら…この先を歩いて行ける気がしないんだよ。 こんなに惹かれてる。どうしょうもない。 胸が苦しい。いっそ、鈴野みたいに全くの他人だったなら、俺はもっと…ちゃんと…おまえに…。 グダグダと御託を並べている間に、窓の外は暗くなっていた。 ソファーから動けないまま…俺は時間を無駄に過ごした。 携帯を手に、シロにLINEを送った。 "晩飯どうする?" 仰向けに寝転んだ腹の上に携帯を置く。 電気…付けなきゃなぁ… シロが帰ったら心配する。 何かあったの?って距離感バカに…近づいてくる。 携帯が鳴ってLINEが帰って来た。 "今帰りなんだ。何か食べたいものある?買って帰るよ" "おまえが食べたい" すぐに返事を返した。 いつもの冗談だ。 返事が無い。 既読が付いてるのに、いつもみたいに…バカ!って返って来ない。 "帰ったらシロを食べる" しつこくバカな事を入れてみる。 やっぱり既読は直ぐについた。 見てる…よな? シロ?… "ごめん、嘘。スーパーの弁当適当に買って来て" そこでやっと返事が来た。 "唐揚げ弁当でしょ?俺もそれにしよーっと" 何だ…普通じゃん… 考えすぎなんだよな…俺の言葉に、反応する筈無いのに…もしかしたら…なんて。 俺がシロをこんなに好きでも、シロは俺を好きなわけじゃないんだから…勘違いする要素もないのに俺は割とめでたい奴だ。 暫くしたら、玄関で音がした。 ソファーから身を捩って廊下に目をやると、玄関の靴箱に見知らぬ傘を掛けるシロが居た。 『傘…どうしたんだよ…買った?』 「あぁ…コレ?晴弥に借りた。お弁当買って来たよ〜…残り後二個だったの!ギリだよ!間に合って良かったぁ、ふふ。はいっ!」 買い物袋を俺に手渡してリュックを下ろすと俺と同じようにダイニングテーブルの椅子に掛けた。 俺は袋から弁当を二個取り出して温める?ってシロに聞いた。 シロが頷くからキッチンに入ってレンジに一つずつ入れる。 後ろをシロが通る。 冷蔵庫からお茶を出してグラスを取ろうと棚に手を伸ばすシロを見下ろす。 その時に… 首にあるホクロを確認しようとしたんだ。 写真の男と…違うんだって、ちゃんと確認しようと…。 そうしたら、白い首筋にあるホクロの直ぐ側に…くっきり…内出血の跡を見つけて、俺はシロの肩を掴んでた。 シロがビックリした顔で 「なっ!何ぃ?!ビックリするってば!どうかした?」 どうかしたじゃない!どうかしたじゃない!! どうかしてるんだ!! 「黒弥…顔、真っ赤だよ?熱でも」 『ねぇよっ!!あるわけないだろっ!!…熱なんかっっ!…あるわけ…ない…』 怒鳴り散らした俺はシロの肩を掴んだままズルズルその手を身体に這わせてへたり込んだ。 「黒弥っ!」 シロが俺を抱きとめる。 「どうしたんだよ、急に」 俺はシロにしがみついて…肩を震わせる。 首筋に埋めた顔を少しだけ引き離して、さっき見たのが間違いなんじゃないかって…そう思ったのに…さっきより近い目の前のおまえの首筋には…やっぱりくっきり紅い華が咲いている。 俺は震える指先で…それを撫でた。 ビクッと跳ねるシロの身体。 ドンッと俺の胸を突き飛ばして、お互いに尻もちをつく。 「ぁ…あ、ごめ…ビックリしちゃった!レンジ!止まったよ!俺、ちょっと汗かいたから着替えるわ!」 俺の横を通り抜け部屋へ入ってしまった。 俺はまだ…立ち上がれず…シロの首筋を撫でた指先を見つめていた。 あの反応は…絶対に …キスマークだ。 シロ…おまえは今日…何をしてたの? 誰と?何をしてたっていうんだよ。 おまえを束縛しようとする俺の事を…許して欲しい。 おまえを監視しようとする俺の事を…嫌わないで欲しい。 シロ…俺、頭がおかしくなりそうだ。 おまえが逃げたその部屋に…俺は飛び込む事だって…出来るんだから…。
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