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黒いシーツは 深海のようにうねって波打ち… 俺達は長い間彷徨って 違う者のフリをして… 本物と出逢う事を…恐れてきた。 本当の出会い。本心の出逢い。 俺たちが…許し合った日。 白い肌を隅々まで撫でて口づけて、抱き締めて、引き寄せて… 間違いなく足りなくて、追いつかなくて… 想いが空回って、仰反る身体を… まるで生きた蝶に細い杭を打ち込んで縫い止めるみたいにして、求め続けた。 シロの意識が無くなるくらいに… まるで、理性のない動物みたいだった。 このまま…息の根を止めてしまうんじゃないかと怖くなるくらいだった。 シーツに丸くなる裸のシロの髪を撫で、 頰に手を掛けてゆっくり唇を塞いだ。 『愛してる…シロ』 初めて口にする言葉に自分でも戸惑っていたけど…もう、好きを超えるこれ以上の言葉が思いつかない。 『シロ……シロ…』 側に寄り添って、身体を抱きしめると、腕の中でピクンと肩が揺れた。 「黒弥……」 見上げてくる顔に、思わず甘い溜息が漏れる。 『…本当に…俺のモノになったんだよな…』 声が震えてしまう。 シロは、はにかんでキュッと胸元にすり寄ってきた。 鎖骨に柔らかな唇が何度も触れてくる。 細い腰を掴んで、目の高さまで引き上げ自分の身体の上に抱き上げた。 『…シロ…キスして』 「…ン…んぅっ…」 合わさった唇から、舌先が痺れるように心地良く絡み合う。 愛しい水音をたてながら、腰のラインから背中の曲線を撫であげた。 ギュッと引き寄せてクルンとシーツに沈める。 今度は俺が上になって、何度も身体にキスをした。 繰り返し、繰り返し… 身体を重ねて、飽きる事無く… 夕方になって、俺が煙草を咥えると、シロがライターを差し出した。 日の暮れ始めたオレンジの室内に小さな赤い火が灯る。 火を付けた煙草を逆手に持ってシロに咥えさせた。 『俺の吸いさしが良いんだろ?』 シロは煙草を吸って天井に細く、紫煙を燻らせる。 華奢な膝をシーツごと引き寄せ、そこに頰を寝かしながら 「そうだよ…俺は黒弥のならなんだって良かった。…煙草も、シャツも…シーツに付いた香りだって黒弥が良かった。」 シロが指先に煙草を持ったまま新しい煙草を箱から取り出して、俺に咥えさせた。 煙草を咥えたシロが、少し顔を傾けて俺の煙草の先にソレを押し当ててくる。 煙草同士が口づけるように、赤い火が移る。 シロの肩を抱いて二人、煙りを吐き出した。 「俺ね、子供の頃は…ずっと一緒に居られるんだって思ってたんだ…だけど…だんだん大人に近づいていくにつれて、そうじゃないって分かってきて…凄く怖かったよ…黒弥とね…別々の人生を歩いて行くんだって…ずっと暗くて…怖くて…それなのに…まだ好きになるんだよ…止まらなくて…止まらなっんぅ…ハァ…ン…んぅっ…」 白い首筋を撫であげる。 シロの言葉は…堪らなく俺を締め付ける。 口づけて、深く唇を重ねて…シロの不安を幾らでも拭いたかった。 『これからは同じ人生だな…』 「え?」 『ずっと一緒に居よう…俺の側に…ずっと…居てください』 シロが俯く。 引き寄せた膝に額を押し付けて、フルフルと震え出す。 「バッバカじゃない…そんな…プロポーズみたいな…」 『プロポーズだよ。………結婚しよう』 シロがビックリした顔を向けてバカみたいに涙を流し始める。 俺は笑って、ぐしゃぐしゃにシロの髪を撫でた。 『バーカ!泣き過ぎだぁ』 「ぅ…うるさい…うるさいよ!」 『ねぇねぇ、返事は?シロちゃん、俺と結婚しますか?してくれますか?』 シロは鼻を啜りながらシーツで顔を半分隠して泣きながら笑う。 「なぁんだよ!なんでそんな急かすかなぁ」 『早く答え貰わなきゃ報告できねんだもん』 「はぁ?ほっ報告?だ、誰にだよ?」 俺はシロをまたベッドに押し倒して覆い被さりながら、言った。 『………鈴野だよ。』 「え?!」 『大輝に伝言を頼んだんだ。鈴野宛てにな。』 「な、なんて?」 シロが戸惑った顔をして俺を見上げる。 『シロにプロポーズするって。アイツを一生…守るからって』 あの時、大輝を使って俺を呼び出したおまえは俺を試した。 そして…おまえはシロを諦める道を選択した。 シロの為に…。 シロがおまえに迫った時も…おまえは頑なにそれを拒んで本当のシロの気持ちを守った。 好きな人を諦める…その気持ちは… 俺とシロが共に抱き続けた思いで… それがどんなに苦しい事か… 俺達は知っている。 だから…あの時、絶対コイツに応えなきゃって思った。 だから…大輝に頼んだんだ。 『悪い…伝言預かってくれる?俺、シロにプロポーズする。アイツを一生…守るからって。シロの事、絶対幸せにするからって…鈴野に…伝えて欲しいんだ!アイツが、シロを守ってくれた事に…俺…今、感謝してるから。』 長い間燻っていた気持ちに蹴りをつけさせてくれた。 おまえがシロと…付き合ったからだよ…。 俺はそんな事を思いながら、シロにもう一度問いかける。 『結婚してください。両親にも…ちゃんと認めて貰おう…時間、かかっても良いから』 シロは両手で顔を覆いながら泣きじゃくる。 小さな子供みたいに、ヒックヒック肩を揺らしながら、息まで出来なくなって。 『シロ…』 「…ぅ……くっ…ぅゔ…ハイ…おね…がいします」 心がとろけるような感覚。 はぁ〜っって息を吐いて目をキツく閉じる。 『絶対………絶っ対!幸せにする』 呟いて…キスをした。 すれ違い続けた想いは…何年も何年もかかってここで今、確かに実ったんだ。 俺達は結婚を誓った。 黒くうねる、シーツの深海で…。 〜五年後〜 カラカラといつ壊れてもおかしくない換気扇の音が咥えた煙草の紫煙を必死に引っ張る。 キッチンに慌ただしく駆け込んで来たシロは洒落たスーツにネクタイを結びながら俺の口元から煙草をくすねた。 『あっこら!俺の煙草っ!』 「起きてるならもっと早く起こしてよぉ!間に合わないだろっ!」 『キャンキャンうるせぇなぁ…』 あいもかわらず…俺の愛しいシロは吠えまくる。 「だって黒弥が悪いんだろっ!」 バタバタしながら戻って来たシロの腰を引き寄せた。 「ぅわぁっ!」 『うるさいんだけど…堪らなく可愛いんだよ』 「なっ!何朝から恥ずかしい事言ってんだよ!」 シロの細い指先から煙草を取り上げて灰皿に押し込む。 引き寄せた腰を更に抱き寄せた。 見上げてくる透き通るようなブラウンの瞳をグイッと見下ろし額を重ねて見下ろす。 『今日はもっと恥ずかしい事皆んなの前でするじゃん…誓いのキスだぜ?』 シロはみるみる腕の中で真っ赤になった。 「そっそれはっ!」 焦るシロの鼻先に鼻をすり寄せて呟いた。 『やっとこの日が来たよ…色々あったな…』 「………うん。あったね…んぅっ…」 クチュ クチュ… 優しい水音を響かせながらシロに深く口付ける。 『愛してる…』 「黒弥…俺もだよ…愛してる」 大学を卒業するまでに… 親の説得をした。正直、随分苦労したのが事実。 喧嘩もした。 友達にも打ち明けた。 俺達には色々なそれなりの困難があった。 それは正直なところ、簡単な物ではなかった。 だけど…こうして一緒に居る。 生まれた時から…今までだ。 そして今日、レストランウエディングで小さな小さな結婚式を開く。 親と、10人に満たない友人を招待して…。 今から…これからも一緒に居る事を誓う。 お互いのスーツのポケットに小さなビロードのリングケース。 中には大切なマリッジリング。 「準備しなきゃ…」 愛しい身体が腕の中を擦り抜けて慌ただしく準備を続ける。 ジャケットの内ポケットで、携帯が鳴り響いて取り出すと、晴弥からの着信だった。 『もしもし』 「よぉ、今日11時からだよな」 『そ!遅刻すんなよぉ〜』 「ふふ、しねぇよ。…おまえ大輝に伝言で俺に言ったんだからな。…ちゃんと見届けないと気が済まない」 『……うん。ちゃんと…見ててくれ。おまえにはその権利がある』 「…一生…守ってくれよ。俺達のお姫様なんだからな」 『分かってる。俺は約束は破らない。アイツは誰にも渡せない。俺が….一生側に居るんだ』 「……頼んだぞ。後で大輝、車で拾ってから行くわ。」 『おう!」 「じゃ、後で!」 『後で…』 携帯をポケットにしまって、煙草に火をつける。 カラカラ カラカラ 古い換気扇の音が心地良い。 外は満開の桜が咲いてる。 俺達が二人で生活を始めた季節だ。 桜の花はシロに似ている。 俺を好きだと言う時に、白い肌を薄いピンクに染める…それが堪らなく、あの綺麗な桜の花に似ているんだ。 『シロ〜そろそろ出ようぜ』 「はーい!今行くっ!」 玄関で二人革靴に足を通す。 見つめ合って キスをする。 あぁ…やっぱり… きっとこれからもおまえは 堪らなく可愛いんだよ……。              END
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