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白episode いつからどうだったなんて記憶なんか無い。 生まれた時から一緒だった。 どちらもがひとりっ子で、寂しがり屋だったんだと思う。 家がお隣りで、両親ともに仲が良くて… 俺と黒弥は双子のように育てられた。 俺には…もうずっと、長い間隠している事がある。 俺の初恋は…何を隠そう幼馴染みで男の黒弥であり…いまだその淡い感情を忘れた事はない。 整った顔に、色素の薄い生まれつき茶色の髪。クセがなくて、サラサラしていて、太陽の光に当たると、まるで染めてるかのように透き通ってキラキラする。そんな黒弥を誰もが放ってはおかなかった。 手足が長くて、小学校の高学年になる頃には女子からモテまくってバレンタインデーの日には靴箱に入りきらないチョコと手紙がまるで漫画みたいに幾つも溢れ落ちていたっけ…。 それは今も続いている…というより、加速している気がする。 想像を超えるイケメンに育った黒弥には常に彼女が居て…まぁ悪くいうと、取っ替え引っ替えなわけで…。 俺はずっと側でそんな黒弥の成長を傍観して来た。 正直、彼は俺なんかとは真逆の人生を送っている。 俺と言えば、身長も全く伸びず、人付き合いが苦手な事からハマったゲームにどっぷり浸かり、アウトドアなんて言葉とは無縁で、それに見合った肌の白さだった。 世間一般で言うところの華奢って言葉は残念ながら俺の為に存在してしまうんじゃないだろうか…自慢にもならない情けない有り様だ。 黒弥に憧れていた。 明るくて、面白くて、ちょっとヤンチャで、カッコイイ。 いつの頃からか芽生えた感情は初恋となり、やがて、世間を知り、この気持ちが間違いだと否定するようになった。 気持ちには蓋をしたんだ。 随分昔に…蓋をした。 それからは幾分楽になった。 黒弥を変な目で見る自分は病気なんじゃないかって思ってたし、そんな自分を仕舞い込んだおかげで、当時やっていたゲームは最高ランクでクリア出来た。 だから2人で住むのは…平気だった。 だったんだけど…本当のところは… …物凄く嫌だった。  随分前に閉めた蓋が…壊れるんじゃないかって… 怖くて怖くて…仕方なかった。 学費で親に迷惑をかけるわけだし、贅沢は言ってられなかった。 俺の気持ちを優先するよりも、自分の経済力の無さにひれ伏すしかなかったんだ。 古いマンションの二階に家族で下見に来た時、広いリビングとカウンターキッチン、バストイレが別で、隣り合わせに並んだ個室が2部屋。 それを見て、何だかやって行けそうな気がしたんだよな…。 隣りに黒弥の部屋がある。 俺にもプライベートな部屋がある。 贅沢な気がした。 その時に、少しズレた蓋に焦ったのは確かだったけど…。 嬉しかったんだ。 心の中では、なんて幸せな空間なんだって…間違いなくそう感じてた。 表向きは一緒に暮らす事を反対する姿勢を貫きながら…。 もちろん黒弥も反対してた。 黒弥は俺と違ってモテるし、多分一人暮らしをして、もっと遊びたかったんじゃないかな…。 でも、最後の最後で俺に言ったんだ…。 "家賃の為に遊べなくなんのも違うし、お前がいいなら、一緒に暮らす?" そう…確か黒弥はそう言った。 俺は、適当に"そうだね"って答えたんだ。 一緒に暮らして…意識し過ぎるせいか、顔を合わせば口喧嘩になった。 共同スペースでのルールに託けて黒弥に絡んだ。 昔の話。 俺が黒弥を好きだったのは…そう、昔の話だ。 そう言い聞かせて、意識してないって、好きなんかじゃないって言い訳して、黒弥に突っかかった。 黒弥は全然堪えない。 いつもヘラヘラして、調子良くかわされる。 怒鳴り合いになったってどこか楽しそうにしていて、本気で相手にされてない気がしていた。 俺はそれで良かった。 4年間、期間限定の同居を思い出にしたかったから…。 もう19年近くの付き合いになるんだもん。 今更…俺たちの何かが変わる事なんてないんだよ。変えちゃいけないんだ…それより寧ろお互いの世界は幼い頃よりずっとずっと広がって… 近かった距離が 遠のいて行くんだ。 大学が始まって、こんな俺にも友達が出来た。 初めて声をかけられた時は…正直ビックリした。 名前は鈴野晴弥。 背が黒弥とちょうど同じくらいで、髪が真っ黒。流行りのマッシュカットで、目が殆ど見えないんだけど、凄く整った顔立ちなのは分かった。 笑うと歯並びは綺麗なのに、八重歯が特徴的で可愛いなって思った。 晴弥はいつの間にか俺の側にいる様になった。 気付けば近くに居た。 頭が凄く良くて、ゲームも上手だった。 寂しがり屋なのか、側にいる時は何処かしら俺の身体の一部に触れているような奴で、その辺は俺に良く似ているなぁって苦笑いした事がある。類は友を呼ぶとか言うもんな…。 俺もついつい幼い頃からの癖で、黒弥の服を掴む癖があるからだ。 こればっかりは気持ちに蓋をしても身体がいう事をきいてはくれなかった。 習慣とは恐ろしいもんだ。 晴弥は冗談みたいな口ぶりでいつも俺とデートしたいって言う。 いつの日かそれを叶える事になって、食事と映画を観に行った。 晴弥と居ると何だか楽しくて、出不精な俺なんかでも、出掛けてみるかって気持ちになった。2人で遊んで家に帰ると、緊張していたのか、いつも凄く疲れはしたんだけど…。 大学ではほとんど晴弥と一緒に過ごすようになってた。 あの…夜までは。 電話があって、貸したいって話してたDVDを近くまで持って来てるって言うから…。 その日は黒弥が何だか変で、電話の晴弥も何だか切羽詰まった感じで…俺はどちらともに居心地の悪さみたいなもんを感じながら、どうしても今日渡したいって言う晴弥に誘われるままにマンションを出た。 薄暗い街灯の下。 晴弥が立っていて、俺が駆け寄ったんだ。 まだ少し肌寒かったな… 「晴弥っ!」 「白、ごめんな、急に呼び出して」 「ううん、大丈夫。でもどうしたの?こんな夜に…」 「あぁ…これ、言ってたヤツ。」 晴弥の手からDVDが手渡された。 「あぁ!サンキュー!わざわざ?学校で良かったのに」 俺はジャケットを確認するように眺めていた。 そしたら、腕を引かれて…ビックリして見上げたら…晴弥が泣きそうな顔をしてるから、余計にビックリしちゃって… 「ど、どうしたの?大丈夫?」 「白…俺…」 グイッと引き寄せられた時には… 晴弥の伏せられた長い睫毛が目の前にあって、人の唇ってやつが…俺の唇を塞いでた。 驚き過ぎて目も閉じれない。 晴弥の顔が傾いて、俺の唇を包み込むように更に深く重ねられ、生温かい舌先が俺の舌に絡んだ。 カチっと口の中で音がする。 俺はそれで正気に戻ったんだ。 晴弥の舌にはシルバーの丸いピアスが刺さってる。 それが俺の歯の裏を掠めた音。 晴弥の胸元を押して身体を離した。 手の甲で唇を拭う。 「え?…ちょ…待って…何これ」 俺は一歩後ずさって引きつった笑い方のまま呟いた。 「白…ごめん…ごめん…ごめ」 「だからっ!!何がだよ…何?分かんないよ…」 晴弥は自分の額を手で押さえつけながら…またごめんって謝った。 俺はその場に居られなくなって、走ってマンションに戻ったんだ。 晴弥の前髪が俺の頰を撫でた。 頰に添えられた手が震えていた。 舌は熱いのに、ピアスがあんまりに無機質な冷たさで忘れられないような感覚を宿した。 玄関に飛び込んで、靴を乱暴に脱ぎ捨てたら真っ直ぐ部屋にこもった。 ベッドに倒れ込んで、唇を撫でた。 「なん…でっ…ぅ…ぅゔ」 涙が溢れていた。 友達に裏切られたから? 裏切りだったのか? いや、分からない。 俺には何も分からなかったんだよ…。 ただ…俺は…ずっとどうしてだか黒弥の事ばかり考えてしまって… 自分で塞いだ蓋が今にも開きそうで怖かった。 キスされたのが…黒弥だったら… 俺はきっと今… 泣いていない。
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