指輪盗難事件

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指輪盗難事件

 指輪盗難事件は新堂瑠奈がシャワーを浴びている起こった。  指輪(ジュエリー)を盗んでいった犯人は白昼堂々、(わず)かな(すき)をついて部屋へ侵入し指輪を持ち去ったようだ。  無くなったモノはテーブルに置かれただけだった。ドレッサーに置かれてあった他のジュエリーには手も触れていない。  ただし盗まれた指輪はスターサファイアで資産価値としては他のダイヤモンドやルビーよりも落ちるらしい。  だがその指輪は亡き母親の形見なので資産価値があるかないかではない。瑠奈にとっては金に変えられないほど大切なジュエリーだった。  けれどもマンションの最上階なので瑠奈も気を抜いてサッシの窓を開けっぱなしだったと言う。  もちろん近くには覗けるような高層ビルなどない。  しかもマンションの防犯カメラには犯行時刻、ストーカーなどの不審な者の姿はなかったと言う話しだ。すぐに警察へ届けたのだが犯人の特定はおろか指輪の行方もわからない()(さま)だ。  まさに不可能犯罪と言えよう。 「なるほど」  被害者宅のリビングで事情を聴いたシンゴは静かにうなずいた。 「おいおい、じゃァ犯人は透明人間かよ。それともデビット・カッパーフィールド並みのイリュージョンでも使ったのか?」  横に腰掛けたハリーはジョークでも言うように茶化した。 「そんな……」思わず瑠奈は眉をひそめた。 「窓は開けっぱなしだったんでしょ。だったら風に飛ばされたんじゃないの?」  ハリーは(おど)けたようにヒラヒラと手を揺らし、飛んでいくジェスチャーをした。 「ええ、でも何時間も探したんですよ。テーブルの下も。それにその日は風もそんなに強くなかったし、他に飛ばされたモノもなかったんです」 「そうですか」  シンゴはテーブルに広げられたマンションの見取り図を見て思いついた事を言った。 「ひとつ考えられるとすればドローンでしょうか」  ベランダの位置を確認した。 「え、ドローンですか」瑠奈は少し驚きの表情を浮かべた。 「なるほどねえェ。真っ昼間、瑠奈ちゃんがシャワーを浴びている三十分の間に防犯カメラにも映らず部屋へ侵入するのは至難の(わざ)だからな」  ハリーもコーヒーを飲みながらうなずいた。 「そうですね」 「まァ、スパイダーマンなら壁をよじ登って来れるかもしれないけど」  またハリーは茶化すように笑って応えた。 「一応、警察も隣りや下の階の住人にアリバイなどを訊いてみたんでしょう」  シンゴはベランダをこと細やかに調べだした。ここは最上階だ。特別、これと言って怪しいところはない。 「ええェ、警察が調べたところベランダ越しに侵入してくる人はいなかったらしいわ」  入念にベランダの手すりなども警察が調べたがお手上げのようだ。 「ふぅン、なるほどねェ」  シンゴは楽しそうに微笑んだ。  彼にとって謎解きは至福の時間だ。
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