専務取締役

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専務取締役

 私は1階のS薬局に足を運ぶ。今後ここに「N眼科の処方箋を持って」足を運ぶことは暫くなくなるかもしれない。私は意を決して自動ドアの前に立った。受付をしてくれたのはいつもの若い女性薬剤師さんだった。処方箋を渡して暫くした後、私の名が呼ばれた。 「えふえふさん。こちらへどうぞ」  私はその薬剤師さんから薬を手渡された。 「今回も、前回と同じ薬が出されています」  にこやかに話しかけてくるこの薬剤師さんは、きっと心根は優しい人なのだろう。だが、私は心を鬼にすることにした。私にとっては重要な問題なのだ。有耶無耶にして終わりたくはなかった。 「ええと、すみません」 「何でしょう?」  薬剤師さんは笑顔でそう問いかけてきた。 「数ヶ月前から、あなたは私にずっとこう仰ってきました。この説明書以上の回数の点眼指示が医師から出ている場合は医師の指示に従えと。医師は患者さん1人1人の状態を考えた上で点眼指示を出しているのだから医師の指示が優先だと」 「はい」 「実は、このチモロールとウノプロストンの製造元の会社に電話して確認したんです。この説明書の回数を超えた点眼をするのは絶対にやめてくれと言われました」  私はそう言うと、ポケットからメモを取り出した。そこには通話先の製薬会社の番号、電話応対を担当した研究開発部のチーフの名前、チーフが言っていた言葉全てがメモされていた。 「あなたは医師の指示に従えと仰いましたが、製造元ではそのような指示に従うのは絶対にやめろと言っています。どちらが正しいのか教えていただけますか?私は今後もS薬局さんとはお付き合いを続けていきたい。ですから、ここははっきりさせてほしいんです」  薬剤師さんは言葉に詰まっていた。 「……かしこまりました。上に確認して、必ず連絡をいたします」 「よろしくお願いします。ではお会計してください」  私はそう告げて薬を受け取り、自宅へと戻った。  自宅に戻ってから5分も経った頃だろうか。私の元に知らない番号からの着信があった。どうも市外からの着信のようだ。
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