専務取締役

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「はい」 「えふえふ様のお電話番号でよろしいでしょうか?」  女性の声だった。 「そうですが」 「私、株式会社Aの専務取締役をしておりますBと申します」 「お世話になっております」  一瞬何のことだかわからなく、私は生返事をした。 「先ほど、弊社のS薬局のX支店にて問い合わせをいただいた件についてご連絡いたしました」  ここまで聞いて初めて事態を理解できた。 「わざわざお返事のお電話ありがとうございます。目薬の件ですかね?」 「左様でございます」  Bさんの口調は非常に丁寧だ。 「本来であれば薬局長から連絡を差し上げるところですが、本日あいにく薬局長がお休みを頂いておりますので、私が代わりに回答させていただきます」  あれ?ちょっと待て?と私は思った。  店長が不在、責任者が不在、このパターンではたいがい副店長や責任者を補佐する立場の方が問い合わせ対応するパターンが多い。さらなる上役が、しかも専務取締役クラスの役員が苦情対応するパターンは40年近く生きてきて初めてである。 「弊社の薬剤師が、医師の指示があるならばたとえ説明書の点眼回数を超えた回数であったとしてもそちらに従うようお伝えしたとのことでしたが、これはその薬剤師の説明が完全に誤っておりました。点眼回数は説明書の通り行うべきもので、これを超える回数をさすことは健康をかえって害する可能性があり控えないといけないものでした。ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした」  Bさんはまさに平身低頭といった感じでそう告げてくる。 「いや、本当なら問い合わせするかどうかも迷ったんですが、S薬局さんは正直自宅からも駅からも近くて便利ですし今後もお世話になることもあると思うので、思い切ってお伺いした次第でした。丁寧に対応してくださりありがとうございました」 「温かいお言葉ありがとうございます。今後はこういうことがあった際には医師としっかり連携を取り、正しい情報をお伝えできるように努めます」 「よろしくお願いいたします。今回は早急な対応ありがとうございました」  私はそう告げ、電話を切った。  どんな結果が転んでも、これできっと前に進める。M先生の診察を待ち望む日々が続き、ようやく診察の日がやってきた。
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