M先生の答案

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M先生の答案

 30分後、看護師さんが私のもとにやってきた。 「目の状態見させてくださいね。はい。ちゃんと瞳が開いているので、検査に移ります。まずは先ほどの撮影室へと移動お願いします」  看護師さんに促され、私は再度暗室の中へと足を運んだ。 「それでは診察の前に一旦目のお写真をとりますね」  私は撮影機の前に促された。 「では右目撮ります。はい」  看護師さんの指示のもと、右目の撮影が行われた。 「では今度は左目行きます。はい」  今度は左目にフラッシュが走った。 「では先生の診察がもう1回ありますんで、診察室の前のベンチでお待ちください」  私は再度診察室前のベンチへと向かった。そして数分後、 「えふえふさん、中へどうぞ」  M先生が私を呼んだ。  M先生は再度顕微鏡のレンズの前にある台に顎を載せるよう指示した。 「はいでは上を見て……次に右上……」  さっきと同じような形で私に支持を出しつつ、先生は私の右目を顕微鏡で観察する。 「レボフロキサシン」  先生が不意に言葉を発した。 「レボフロキサシン?」  私が問いかけると、先生が再度口を開いた。 「ドライアイに効かなかったでしょ?あ、次左下見て」 「はい。効いた感触はなかったです」 「そうだよね。あれドライアイじゃなくて殺菌用の目薬だから。本来結膜炎とかものもらいのとき、もしくは手術後の殺菌なんかに使うものだよ。はいじゃあ次左見て」  私は怒ることすらできなかった。むしろ清々しいほどの間違えっぷりに笑いをこらえてすらいた。 「じゃあ左目見させてね。まず上から……で、近見視力(きんけんしりょく)、何度も測ってるんだね。診療報酬明細書一通り見たけど」 「近見視力?」 「老眼とかで近くのもの見えにくくなっていないかの検査ですよ。通常は本を持ってそれに載ってる輪っかのあいてる方向を答える検査になるけど」 「あ!」  思い出した。何度かN眼科で受けたことがある。あれは老眼の検査だったのか。N先生も看護師さんも、私に説明してくれたことは一度もなかった。 「老眼、心配だったりするの?あ、下向いてください」 「いえ……老眼で困ったことはありませんし、そんな相談もしていませんでした」 「…………そう……あ、左上見て。はいじゃあまっすぐ見てください」  M先生の指示に従い、私はレンズの方を向いた。 「はい。じゃあ検査終了です」  先生はそう言うと顕微鏡から目を離し、私の顔を見た。 「ええと、再度確認だけど、今回の受診はセカンドオピニオンというかたちではなく、転院という形で大丈夫ですか?」 「はい。大丈夫です」  私は意を決して答える。 「だとしたら、これから2つ指示を出しますので、それを守っていただけますか?」  一瞬背筋が寒くなった。だが、こうなったら行けるところまで行くのみ。とどのつまり、自分の目を守れるのは自分だけなのだ。 「はい。おっしゃってください」  私がそう言うと、先生は私の方を見ながら言った。 「1つ目は、追加の検査が必要になるので、2週間後ぐらいに予約をとってもう1回来てください。それと……」 「それと…………?」  私がおそるおそる訊き返すと、先生は続きの言葉を発した。 「もう1つ。次にここにかかるまで、今さしている目薬を一旦全部やめてください。眼圧の目薬のレスキュラもチモプトールも全部」 「えっ?」  私は思わず反射的に声をあげてしまった。 ※レスキュラとチモプトールは、それぞれウノプロストン、チモロールのことを指しています。
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