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「次回受けてもらう視野検査で再度答え合わせをしたいと思っているんだけど、君は緑内障ではない可能性が高いと僕は思っています」
先生はそう言うと、診察室にあるディスプレイ映っている先ほど撮影した眼底写真へと視線を移した。
「ええと、あなたの目は学術的に言って確かに緑内障になりやすい目の形状はしています。そして、OCTの画像にも確かに赤い部分や黄色い部分は映っているんですよ。ただ今日撮影したこのOCTのデータは緑内障の場合の色の付き方とはちょっと違うんですよね。むしろこれは強度近視の方によく見られる画像なんです。少なくとも緑内障の患者さんで見られるデータではない。紹介状に入っていたOCTの画像を見ても、やっぱり緑内障には思えないんです」
先生は画像にある赤い部分を指し示しながら私にそう説明した。
「目薬をさす前の眼圧の数値って、いくつでしたっけ?」
「両目とも18です」
「それ、本来ならば正常値の範囲ですからね。正常眼圧緑内障でもない限り。ちなみに今日の眼圧は左が14で、右が15です。手動で測った方の数値ね」
機械の数値と2~3の差がある。誤差が大きいという先生の言葉に説得力が増した。
「ただどうしても解せないのが紹介状に同封されていたこの視野検査のデータでね。確かにこのデータだと見えていない部分はありそうなんです。でもこれも緑内障っぽい視野の欠損にはどうも見えなくて……なんか、検査でうまくいかなかったこととかありました?たとえば、集中力が切れた状態で光が十分追えなかったとか」
「それなんですけど」
私はそう声を上げた。
「お話を伺っている限り、その先生の視野検査はやり方が間違っている可能性があります。ほかの病院で再度検査してもらった方がいいかもしれません」
以前、私はインターネットのサイトでこの答えを貰っている。ざっくばらんに先生に聞いてみようと思った。
「何かあったんですか?」
「実はその検査、光がぼやけて全然見えなかったんです。0.1も見えない裸眼で行ったんですけど、眼鏡をかけてはできない検査だから裸眼でやってってN眼科の看護師さんから言われて。見えないからなんとかなりませんか?って聞いたら、光を追うだけだから近視の状態で受けても結果は変わらないって」
M先生の表情が固まった。
「……確かに検査は裸眼で行うんだけど、そのとき何も対策しなかったの?普通だったら、検査計の前に視力矯正用のレンズを置いてはっきり見えるようにしてから検査をするんだけど…………普通なら」
視力矯正用レンズ???そんなアイテム初めて聞いた。
「そんな話、今初めて聞きました」
「そのやり方は…………やり方が非常によくないね。っていうことは、そもそもこの視野検査の結果はなかったものとして考えましょう。うちでもう1回検査しますね。さっきも言ったけど、僕の答案は君は緑内障ではないというものです。その答え合わせを次回の視野検査で行います」
先生はそう答えた。必要ではない検査を繰り返して行い、視野検査についてはやり方も間違っている。その結果緑内障だと誤診をし、点眼の指示も回数、内容ともにどこまでも不適切。挙句の果てには診療報酬のかさ増しのためにまつ毛をわざわざ抜く。ここまで酷い薮医者は39年生きてきて会ったことがない。転院は大正解だったらしい。
「まだ緑内障ではないと確証を得ているわけではないので、視野検査は必ず受けてくださいね。それでは今日の診察は終わりです。お大事に」
「ありがとうございました。では次回よろしくお願いします」
私はそう礼を述べ、診察室をあとにした。
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