ことの発端

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 N眼科は最寄り駅の改札から徒歩45秒の位置にあるビルの4階にあった。 「えふえふ(仮名)さんですね。お待ちしておりました。こちらの問診票に記入の上、お待ちください。あと、血液検査の結果もお預かりしますね」  女性に促されるまま私は待合室のベンチに腰を下ろす。バインダーにボールペンを走らせて最後の項目まで記入を終えたところで、私は診察室内を見渡した。完全予約制ということもあるのか、ソファーにはあまり人が座っていない。診察を終えた人も会計をスムーズに終えて病院をあとにしている。どうやら口コミの内容は本当らしい。  視線を斜め上に向ける。すると医師免許証を持っている旨を示す免状が立派な額にはめ込まれて掲げられているのが見えた。また、壁にはたくさんのポスターが掲げられている。 「緑内障は点眼で進行を止められます!」 「糖尿病性網膜症と診断されたら……」 「ドライアイに悩んでいるあなたに」  どれも早い段階での診察、治療を訴えかける文言だ。その中で1点、気になるポスターを見つけた。 「白内障と診断されたあなたへ」  と書かれたポスターだ。その下の段には 「白内障専門医 N」  と書かれていたのである。 「へぇ…この方の専門は白内障なんだ……」  白内障は私の亡くなった祖母がかかっていた病気だし、高校生のときの家庭科学習の時間で特殊な眼鏡を用いて体験学習をしたこともある。ポスターには手術で治療が可能と書かれており、ここのN先生はそういった対応もしてくれそうだと期待が膨らむ。 「えふえふさん。中へどうぞ」  ひととおりポスターに目を通したところで私の名を呼ぶ声がした。
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