答え合わせ

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「えふえふさん、中へどうぞ」  M先生に促され、私は診察室の中へと入る。例によってM先生がひととおり顕微鏡で私の目を観察したあと、麻酔用の点眼薬を私の目に垂らした。 「眼圧は右が17で左が16ですね。目薬やめても大きく上がったりはしていないですね」  先生はそう言うと、視野検査の結果をディスプレイに表示した。一部だけ黒い場所があるが、ほかの場所については白かかなり薄いグレーで表示されている。 「これが今日の視野検査の結果です。この黒い部分は盲点って言って、普通にしていたら片目では見えない部分です。ですので心配しないでください。この検査の結果を見る限り、視野の欠損は一切起こっていません。眼圧も正常範囲内ですし、とりあえず、僕の見立ては間違っていなさそうです」  私は心から安堵した。とりあえずは失明の心配はなさそうである。 「それとですね、1点言っておかないといけないことがありまして」 「何ですか?」 「あなた、白内障にかかっていますよ」 「えっ?」  私は思わず聞き返した。 「この写真にも白く濁っている映像が映っていますし、これは顕微鏡でちゃんと見たら眼科医だったら誰でも気づきますけどね」  M先生はそう言い切ったが、これは一切N眼科では指摘されなかった事項である。N眼科には  「白内障専門医 N」  と書かれているポスターが確かに貼られていた。どう考えても笑えないジョークなのだが、180度回って大声で笑いたくなってしまった。 「どんな治療をすればいいんですか?手術、必要ですか?」  私は再度尋ねた。 「進行度としては5段階中で1から2の間ぐらいです。現段階では治療の必要はありません。眼圧の測定も含めて、3か月に1回の経過観察で十分です。手術が仮に必要だとしても、この状況ではおそらく15年から20年後ではないでしょうかね」 「じゃあ今のところは」 「3か月に1回検査に来ていただく以外は何もしなくて大丈夫です。今ある目薬も捨ててもらって構いません」 「わかりました」 「ではまた3か月後に」 「本当に助かりました。ありがとうございました」  私は深々と頭を下げ、診察室をあとにした。  会計を済ませ、病院の外へと足を運ぶ。時刻はすでに夜の7時を回っていたが、大阪のビルにはまだ煌々と明かりが灯っている。その明かりが今日は一段ときらびやかに見えた。
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