ことの発端

4/5
前へ
/33ページ
次へ
 診察室の中は遮光カーテンで仕切られており、パソコンの画面の光でN先生の顔がやっと見えるか見えないか、といったところだ。 「えふえふさん、ですね。ええと、まぶたのあたりがピクピクするということと、頭痛がするということとで来たんですね。では目の状態見ますんで、そこの機械のところにあご載せてください。」  N先生はパソコンの画面をひととおり見終えたところで、私にそう指示した。言われるままに私は白い台にあごを載せ、目の前のプレートに額をくっつけ、レンズの真ん前に右目の視線を合わせた。 「では右目見ますね」  ひととおり目を見終わったところで、先生は毛抜きのようなもので私のまつ毛を抜いた。 「はいでは左目……」  先生は顕微鏡のレンズを左目に合わせ、再度まつ毛を抜く。ひととおり顕微鏡での作業を終えると、先生はパソコンへと視線を移した。 「検査の結果報告しますね。視力については右目0.06で左目0.04。両目だと0.1です。強度の近視ですけど今の眼鏡と同じ度数のレンズだと両目で1.0見えていますし、少し強めのレンズにすれば右も左も1.2までは問題なく見えますんで心配しなくていいです。眼鏡も変える必要はありません。それとね、涙の量を測る検査ですけどね、涙の量が少ないですね。ですからドライアイの傾向が強いです。頭痛の原因はドライアイによるものである可能性が高いですね。痙攣もあるようですし目がかなり疲労しているようです。目薬だしておきますから。それと、目の痙攣に効く漢方薬だしておきますからね。それで、目の写真の結果だけどね、こっちを見てください」  ずっとしゃべり続けていたN先生はそう言うと、一旦呼吸を置いた。 「こちらはあなたの目の写真から、視神経の様子をとったものです。青い部分と、黄色い部分と、赤い部分があるでしょう?赤い部分は視神経が切れていることを示しています。黄色い部分については少し危ない部分になりますね。で、視神経が切れている部分があるということは、その部分については見えていないと考えて構わないということです。で、今日の視野検査ですけど、実際に光を追えていない箇所が見られています。視野が欠けている部分があるということですね。自覚症状はないかもしれませんが。となると、視神経をこれ以上傷めないためには眼圧を下げる必要があります。今の眼圧が両目とも18で高いので、12から13ぐらいまで下げないといけませんねぇ」  N先生はそう言うと、カルテにペンを走らせた。 「まあ血糖値やHbA1cの値は今のところ正常範囲みたいだから糖尿病性網膜症の心配はなさそうだけど、とにかく、眼圧を下げないといけませんから。さっき言ったお薬のほかに眼圧を下げる薬も出しますから。ちゃんと眼圧が下げられているかどうかを確認する必要があるので、3日後に来てください。今日から3日間目薬をさし続けて、眼圧がどうなっているかもう1回測りましょう」  先生はそう言うとカルテを閉じた。 「じゃあ診察は終わりですので、受付で予約をとっていってくださいね」  先生の言葉を受けて私は軽く会釈をし、診察室をあとにした。  会計呼び出しまで5分と時間はかからなかった。 「えふえふさん。本日のお会計は4660円になります」  一瞬、耳を疑った。普通、CT検査やMRI検査など特殊な検査がない限り1回あたりの病院代はせいぜい3000円台には収まるもの。いくら初診とはいえちと高すぎではないだろうか……。 「本日は初回診療で各種検査を行ったため少々料金が高めになっておりますが、次回以降はもう少し金額は抑えめになると思いますので」  私の表情から察したのか、受付の女性がフォローの言葉をはさんだ。私は会計を済ませると眼科をあとにし、そのビル1階の薬局へと向かった。  
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加