ことの発端

5/5
前へ
/33ページ
次へ
 1階にあるS薬局は青い看板が目印になっている。S薬局の店舗は県内のあちこちにあり、比較的大きな法人によって経営されているようだ。店内には近所の皮膚科や内科などの病院の処方箋を持った患者も来ている気配があり、多くの患者がこの薬局を頼りにしていることが窺える。  薬局で問診票を記入し終えて数分。私の名前が呼ばれた。ケースに入った薬を準備して待っていたのは比較的ベテランのような風貌に見える眼鏡をかけた女性の薬剤師だった。 「えふえふさん。本日はどのような症状で?」 「目がピクピクするのと、それと頭痛が酷くて……」 「そうですか。高眼圧とは言われましたか?」 「はい。眼圧が高いとは言われました」  一通りの質問が終わった後、薬剤師は私に1枚の紙を見せてきた。 「本日のお薬は4種類になります。まずはこのミケラン2%と、ヒアロンサン、それとトスフロ点眼液になりますね。あとはこちらの漢方薬になります。ミケランは眼圧を下げるお薬で、寝る前にさしてください。他は1日2回点眼でお願いします。漢方薬については毎食後にお飲みください。ちなみにミケランは見え方が眩しくなったり少しぼんやりと見えたりといった副作用が起きることは考えられます。そういう症状が出たときは先生に相談してください。ちなみに目薬って普段から使用されていますか?」 「いえ……ここ20年近くは常用はしていなかったです」 「でしたら2点ほど守っていただきたいことがあります。まず、複数本の目薬を同時にさすときには1本目から2本目の間は5分以上時間をおいてください。時間をおいている間はしっかり目を閉じて目薬を目になじませるようにしてください。そしてもう1点は開封した目薬の保管方法です。開封した目薬はできる限り冷蔵庫など暗くて暑くならない場所に保管して、開封後1か月を過ぎたものは捨ててくださいね。効きにくくなる場合があるので」 「わかりました。ありがとうございます」  私はそう告げて会計を終えると、薬局をあとにした。  家路につき、早速目薬を袋から取り出す。その際、薬局から貰った薬に関する説明書に目が留まった。 「えっ…………?」  私の口から思わず言葉が漏れ出た。  ミケラン2%の目薬の効能の欄にしっかり明記されていたのである。 「緑内障の薬です」  と。 「視神経が切れていることを示しています」 「視野が欠けている部分があるということですね」  先生の言葉が蘇ってくる。  私は受診前からすでに2つのことを知っていた。  緑内障は失明に至る病気であるということを。  そして、緑内障は治らない病気であるということを。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加