十月十日

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十月十日

 永田町を降りて三番出口、吹き荒ぶビル風によりコートがはためいていた。遠田は煙草を咥えようとして、昨今の条例を思い出し、渋々空を見上げ溜息をついた。満月が煌々と南の夜空に輝いている。僅かだが遠くから鐘の音が聞こえた。風が凪ぎ空気の淀みを感じた彼は、マスクをして呟いた。 「解禁したな…」  彼は胸ポケットから小さな鈴を取り出した。風がないのに鈴が鳴り出した。音のする方へと向かった。  国道二百四十六号線には人影はないが、定期的に警察車両が常駐していた。坂道を登り国会議事堂と向かい、あたりを確認してから柵を超えて前庭へと入り込んだ。誰もいない整えられた庭の中に、【それ】はいた。亡霊を見つけた。静かにただじっと空を睨むように動かないそれは、彼にはまだ気づいていないようであった。水がひたひたとする音が聞こえてくるが、足元にはただの闇が広がり、それは半径五メートル程度の範囲を回り続けていた。  遠田は音もたてずに背負っていたカバンから長弓を取り出し、【それ】に向けて構えた。呼吸を減らしていく。矢は無い。しかし遠田は何の迷いもなく弦を引いていく。彼の狙いは定まる。【それ】に対峙する。  構えて、射貫いた。
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