神無月の頃

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神無月の頃

 遠田は西早稲田駅を出て少し歩き、神社の鳥居を抜けた。二礼二拍手、そこから両足でステップを踏み鈴を鳴らした。目の前の本殿が戸を開けた。  彼は中へと踏み入れた。中には巫女が二人構えており、遠田が入るとおもむろに戸を閉めた。遠田は正座して構え、声を張り上げた。 「おいでませおいでませ。」  部屋の大きさを錯覚させるように、声は木霊することなく消えていく。しばしの沈黙の後、声だけが返ってきた。声色は年も性別も感情も見えないものだった。 「して、何が遺ってましたか?」  遠田はうつむき、口に手をあてた。吐き戻すように口から髪の束が出てきた。彼はそれを両手で差し出した。 「遺髪を一つ。」 「ふむ、依頼された明暦のもので間違いないでしょう。ご苦労様でした。」  巫女の一人は薄い封筒を遠田に差し出した。 「解禁したばかりですので、巷に溢れかえっております。依頼も来てますので、引き続き励んでください。」  姿の見えない声はそれまでだった。代わりに巫女によって再び戸は開き、遠田は一礼した後、本殿を後にした。
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