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店を出て、遠田は深く溜息をつき、財布の中を漁ってみた。一週間を過ごすには心許ない残額ではあるが、彼は他に仕事もないので、「狩り」をするしかなかった。とぼとぼと飯田橋駅に繋がる小道を降りていく。
神無月の満月から始まった亡霊狩り、桜が花咲くその日まで、彼は溢れ返った【それら】を増えすぎないように「狩り」続けていく。報酬の基本は諏訪大社からの謎の現物ばかり。遠田は夏にはいつも転職を考えてしまっていた。それでも遠田が辞めないのは匂いのせいであった。
金木犀の薫りが街に広がっている。街には人が溢れかえっている。そして、その中に【それら】も蠢いている。音もなくそこに居る。金木犀の中に仄かに砂糖を焦がしたような甘い香りが混じる。
東京ほどの街には山程の亡霊が居る。そして多くがいずれ消えていく。だから本来気にする必要はない。
そこで遠田は匂いを感じた。焦げ臭い匂いが混じってきた。遠田の意識に電気が走った。目を閉じて匂いの方角を感じた。懐から出した鈴も反応していた。遠田はそこへ向かって行った。
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