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逢坂にて
匂いは深くなる。鼓動が速くなる。しかし息は浅くなる。【それ】は確実にいると確信した。鈴がなる。それに反比例するように遠田は足音を潜めて近づく。そして坂の上に【それ】はいて、遠田は坂下で対峙した。
身の丈二メートルをゆうに超える亡霊が泣いていた。そしてその足元に出刃包丁を持っていたオフィスカジュアルの女がいた。女は目を血走らせて歩き、口元では小さく呟いていた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」
女の口はたしかにそのように動いていた。遠田は女との距離がまだあることを確認して、弓を取り出した。女は遠田の存在には気づかず、亡霊はただ泣いていた。
弓を引いて矢をイメージをする。
照準は亡霊の頭唯一つ。
息を潜める。
心を整える。
女は遠田にむかって包丁を突きつけてくる。
走り出す。
叫ぶ。
そして、遠田は射貫く。
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