逢坂にて

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 瞬間、亡霊の頭は爆ぜた。そして女はその場で崩れた。遠田は坂を駆け上がり、素早く弓を引き、「矢」を放たれ、亡霊の頭が霧散した。  遠田が坂の上まで駆けつけると黒い「澱み」が路地に消えようとしていた。それを丁寧にすくい上げて、遠田は呑み込んだ。遠田は体内に燃えるような熱を感じ取り、にわかに口元に手を当てた。  彼の口元から次々と紙が出てきた。プリントアウトされた文書、直筆の手紙、筆で認められた短歌。年代も筆跡もソートされることなく乱暴に吐き出されたのは恋文であった。すべて吐き出した彼は、それを丁寧に束ねて鞄に詰めた。  匂いは消えてしまった。あの日の匂いには今回も出遭えなかった。遠田は目的には辿り着けず、小さく溜息をした。そして、包丁を持ったまま動けない女のもとに近づいた。彼は女から包丁を取って告げた。  「コイツは俺がもらっておく。その方が君のためになるだろう。」  日が沈み、夜になっていった。
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