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エピローグ
「で? どうなったのよ」
「どうなったって、何がですか?」
「ロロとの関係よ! あんたらいつまでもウジウジしているから!」
「どうって、どう、なんですかね?」
「ちょっと! 何で曖昧なのよ!」
二人で民宿に戻って来てからは長時間に渡る葉流さんのお説教が待っていた。私は大人しく聞いていたが、ロロは黙っていなかったようで。
しばらく二人の言い合いになっていたのだが、今回の一件でスマホを私たちも持つようにと言われた。正直なくてもいいと想ったけど、今後似たようなことが起きたら困るので了承した。
「だって、特にロロは付き合うとか言ってませんし」
「はぁぁぁ? ちょっと、ロロ! あんた本当にイチモツついてんの!」
「うるさいわねぇ! 私はロロって性別って言ったでしょ!」
「そんなの知るか! 男を見せなさいよ!」
私に質問攻めしていたのがロロに変わったようでホッとした。少しでも距離を取ろうと下がると、トンっと何かにぶつかった。
「や、ルナちゃん。体調はどう?」
「黒川さん。白山さんも。お騒がせしてすみませんでした」
「大丈夫だよ。私も、楓も、やっと今後のことを決めたの」
「あ、そうなんですか」
「まぁねぇ。とりあえず、しばらくはここら辺で部屋借りて二人で過ごすよ。私も紅葉も、二度とあそこには帰らないと思うから」
ちらっと隣にいる白山さんを見た黒川さん。目が合った二人はニコニコと笑いあっており、幸せそうだ。よかった、二人の行き先が決まって。自分のことで手一杯だったので何もできなかったのが申し訳なくなる。
「お役に立てず、すみません」と頭を下げた。上げた時に二人は不思議そうな顔をしていたので私も頭の上にハテナを浮かべる。
「何言ってるの。ロロさんとルナちゃんを見ていたから私たちも決断できたんだよ」
「え。私と、ロロですか?」
「うん。二人とも、自分と戦って決めたんだろうなって。私たちも、戦わなきゃ」
きゅっと握った腕はかすかに震えていた。白山さんも、何かしら覚悟を決めたのだろう。何があったのかは聞けずじまいだったけど、彼女たちの決断に役に立てたのなら良かった。
「こちらこそ、ありがとうございます」
「いえいえ。明日にでもここを出て行くよ。ロロさんと、お幸せにね」
「はい。お二人も、幸せになってくださいね」
もちろん、と笑っている黒川さんと、一緒に頷いている白山さんならきっとやっていけるだろう。そういえば、と黒川さんが何かを言いかけた時。遠くから葉流さんが二人を呼んだ。
「あ、はーい! 今行きます!」
元気よく返事した黒髪の彼女。さらっと流れる短髪とふわふわの彼女を見送ると、入れ替わりにロロがフラフラとこちらへ歩いて来た。長時間葉流さんを相手していたからなのか、お疲れらしい。
「大丈夫?」と声をかけると手だけで返事をした。そのまま床に座り込んだので、私も彼の隣にかがんだ。
「大変そうだね」
「本当よ……あの子、元気すぎて困っちゃうわ」
盛大にため息をつくロロ。そんな彼を見て思わず笑ってしまった。くつくつと笑っているとじっと私を見つめる。笑っちゃダメだったかな。「ごめん」と謝ると首を傾げた。
「何で謝るのよ」
「だって、こっち見てたから……」
「あー……そうね、うん。ほら、前よりも表情が豊かになったなって思っただけよ」
「そう、かな」
自分では分からない。確かによく笑うようになったし、久しぶりに人前で泣いた気がする。いつもならしないことができるようになるのは良いことなのだろうか。数ヶ月前に言われた忘れていた感情が、思い出されたのかもしれない。
「そうよぉ? 私の前で、あーんなに泣いちゃって。まぁ、可愛かったけど」
「そ、それは、忘れて欲しい……」
「ふふっ冗談よ、冗談。……ねぇ、ルナ」
「うん?」
「あなた、自分の名前に漢字があるって知ってる?」
「え、そうなの? それは聞いたことなかった」
「葉流から聞いたのよ。聞いたでしょ、あなたのお母さんと親友だって」
「うん」
「あなたの名前は、日本でも生きて行けるようにってつけられたの」
私の手の上に彼の手が置かれた。小さい私の手を余裕で包み込む大きさのある彼の手は、温かい。人の温もりがある。
「流れる涙って書くのよ」
「流れる、涙……」
「そう。あなたが死ぬ時に、たくさんの人が泣いてくれますようにって込められたらしいわ」
素敵ね、と笑う彼。
「ねぇ、流涙。愛しているわ」
「……うん。ロロ、私も、愛している」
終わり。
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