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「何か面白いことあった?」
「んー? そうねぇ。ルナ、成長してるなぁって思ったの。ここに来たばかりの時はなーんにもできなかったのに」
「そ、それは、仕方ない、と言うか……」
頭の片隅で思い出される苦悩の日々。文字通り何も一人ですることができなかった私。一つ一つ丁寧に、人間らしく生活ができるようにとロロと葉流さんが教えてくれたのだ。ご飯の食べ方も、お風呂の入り方も、全て。
こうしてちゃんと話せるようになったのもつい最近のこと。どうにかして自分の思いを彼に、ロロに伝えたいと思ったから。視線をずらして手遊びをしていると頭の上に温かい感触がした。
「本当、表情豊かになったわね。嬉しいわ。これからも、一緒にいましょうね?」
「……うん」
スリスリと撫でられる感覚。ロロの手はいつでも温かい。私より少し大きな手は魔法のように私を安心させる。私よりか弱いのに、何故この手に全てを委ねたくなるのだろう。
下を向いたまま彼の顔を見ることができない。いつまでもこの関係が、この日々が続いて欲しい。誰にも、壊されることなく。壊すような原因を見て見ぬ振りをして。
「あ! 私、鍋に火をかけっ放しで来たかも! ちょっと見てくるわね!」
唐突に大きい声を出されたので肩をビクつかせた。「キャー!」と叫びながらキッチンへと向かうロロ。離れてからすっと引いていく熱が寂しさを加速させる。自分の手を頭の上に置いた。何も感じない。重さがあるだけ.。
「……温かかったな」
「なーにがー?」
「は、葉流、さん」
「やっほ! ちょっと早く来ちゃった! で、何が温かかったのー?」
「何でもないです。ロロならキッチンにいます」
ニヤニヤとしながら唐突に現れたのはまさかの葉流さん。ついさっき電話したはずだったのに。そんなに早く時間が過ぎちゃったのだろうか。あのやりとりを見られたのかも。
頭の中で巡っている考えはまとまることなく、背を向けた。次に「こんばんはー」と夢さんの声が聞こえてくる。彼の声が届いたのか、キッチンから時計頭を覗かせた。
「あら、思ってたより速かったじゃない」
「まぁね! 必要とされているのならすぐにでも!」
得意げに胸を張っている葉流さんを見てロロは「はいはい」と適当に相槌を打つ。こちらへ出て来た時にはすでにエプロンを外していたようで、一通りの準備は終わったのだろう。夢さんが両手に持っている紙袋の中を覗いていた。
「こんなんで良かったっすか?」
「たぶん大丈夫よ。ごめんなさいね、いきなりで」
「いえ、大丈夫っす。むしろ、俺の服で大丈夫なのかなって思って。一応、綺麗なやつを選んできたっす」
優しいわねぇ、と言いながらいくつか服を手に取っていた。私もちょこっと覗いてみたのだが、そこそこの量が入っている。今私が持っている服よりも多いかもしれない。
葉流さんの方には可愛らしい服も入っているようで、独特な服を着ていた彼女たちを思い出していた。楽しそうに三人で話していたのでこっそり抜け出そうとした時。ぐいっと服を掴まれた。
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