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「で? 二人で何を話していたのかしら?」
「何のことかしら?」
「えー? 二人でイチャイチャしてたじゃなーい! それで私たち入るタイミング失っちゃったのよ!」
イチャイチャ、を強調して言う彼女は口元を手で隠している。しかし、私からの視点ではにやけた口元は見えていた。この人、しっかり見ていたのか。どおりでタイミングが良いはずだ。
はぁと小さくため息をつくと「あ、逃げちゃダメだからね?」と無言の圧力をかけられる。後ろからすでにドス黒いオーラが出ているので視線だけそらしてこの場から逃げるのを諦めた。
「な、何言ってるのよ! ただ、二人で今日と言う日を楽しんでいるだけよ!」
「えー? そうかなぁー? 顔赤いけどなぁー?」
「うるさいわね、この小娘!」
「はぁ? 小娘とは何だ小娘とは!」
「あら、ごめんなさい? 小娘じゃなくて、立派なおばさんだったわねぇ」
「はーい、私キレましたー絶対許さん!」
些細なきっかけで始まった喧嘩は取っ組み合い……までにはならなかったけど、言い合いが始まった。どちらも煽られることに慣れていないのだから、わざわざそんなことを言わなければいいのに。
いつの間にか服を離されたのでそのうちに二階へと避難……ではなく、服が来たことを知らせに階段を上った。
数回ノックをして黒川さんの名前を呼ぶ。すると、数秒沈黙があった後に緩い返事が聞こえて来た。
「はいはーい。あ、ルナちゃんか。どうした?」
「あの、さっき話していた服が届きました」
「え、もう? 助かるよ。ありがとうね」
「いえ。その、今ちょっとうるさいんですけど、大丈夫ですかね?」
ちらっと階段の方を見る。大きな声で言い合っていたのもあり、そこそこ声が聞こえて来ている。お客さんがいるのに構わず喧嘩を始める二人は本当に仲が良い。似た者同士だからこそ、喧嘩してしまうのかもしれないなと思ったり。
「あぁ、だから騒がしいんだ。大丈夫だよ。私も紅葉も騒がしい方が好きだからね!」
ね、と後ろに座っている白山さんに同意を求めると小さく頷いていた。それなら良かった。これで何か言われたらどうすればいいのか、また分からなくなってしまうところだったから。
「ありがとうございます」とお礼を言い、騒がしい一階へ。少しは収まったのかなと思いながらリズムよく降りるが、相変わらず二人の言い合いは続いているらしい。
「そーもーそーも! あんたがいつまでも奥手だからいけないのよ! 男ならさっさと腹をくくりなさい!」
「はぁー? 私はぁ、ロロって言う性別なんですぅー人に合わせたら男ってだけですぅー」
「じゃあ男じゃないの! 言い訳すんな!」
「おお、盛り上がってんねぇ!」
すみません、ともう一度頭を下げた。しかし彼女のは楽しそうに笑っており、むしろイキイキとしている。目をキラキラ輝かせて「混ぜてー!」と突っ込みに行った。後ろ姿を見送るだけで止めようか悩んだが、「大丈夫だよ」と白山さんが言った。本日二度目の彼女の声は可愛らしい。
「あ、この子ね! あらまぁ、カッコイイお姉さんじゃないの! 歳は?」
「二十八歳でーす! お姉さんも可愛いですよ!」
「あら、嬉しい!」
「なーにが嬉しいよ。三十路なのに……って痛い痛い痛い!」
口喧嘩をしていた葉流さんは何事もなかったかのように話しているが、ロロが余分なことを言ったせいでグリグリと腕をつねっている。
あぁ、あれは痛いだろうなぁ。葉流さんって意外と力強いから怒るとすぐつねったりする。特に、年齢のことを言われた時とか。
そんな二人のやりとりを見ながら笑っている黒川さん。お話し上手なのだろう。物怖じせずに他人と話せる姿は眩しく感じた。自然と目が細くなっていると、「あら、そちらはお友達?」と白山さんに視線が移る。
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