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「は、初め、まして」
「はい、初めまして。何と呼んだらいい?」
「紅葉、でいいです。紅に葉っぱの葉で『あかね』って読むんです」
「えー! 私と同じ漢字入ってるじゃん! これは運命なのでは?」
「そ、そうなんですか? 私も、嬉しいです」
へへ、と笑った白山さんに全員の視線が集まった。可愛らしく肩を揺らして笑っている彼女の周りには華が咲いていた。
来た時にはほぼ無表情だった彼女が笑うとこんなにも変わるとは思ってもいなかったのだ。しばらくすると私たちが見ていることに気づいたのか、「ご、ごめんなさいっ」と謝り始めた。
「あら、どうして謝るのかしら?」
「そ、その、気に触るようなこと、しちゃったかなって」
「そんなわけないじゃない。あなたがあまりにも綺麗だったから見惚れただけよ」
ビクッと大きく肩を動かした白山さん。人の顔色を伺ってしまう人なのだろうか。ロロの一言によりほっとした表情を見せた。その表情は嬉しさよりも安堵のようで。気のせいかと思っていると、スッと後ろに隠した手が見えた。
「それよりも! ほら、二人とも見て見て! 好きなだけ持って行っていいからね!」
「あ、ありがとうございます!」
暗い雰囲気を拭うように葉流さんの声が聞こえた。駆け寄っていく白山さんは先ほどの笑顔に戻っていた。もしかして、気のせいかな。私の心配のしすぎかもしれないし。悶々と考えていると名前を呼ばれた。ロロがキッチンの入り口で手招きしているのを見て、談笑している彼女たちの横を通り過ぎた。
「何?」
「見た?」
「え、何を?」
「あの子の腕。正確には、手首かしら?」
チラッと視線を送るように白山さんを見つめるロロ。気づいていたのか。私は縦に首を振ると「やっぱりねぇ」とため息をついた。
私も同じように彼女を見るが、不安な表情はどこかへ消えてしまったらしい。すっかりあの中に馴染んでいるようだ。人見知りはするけど慣れればよく話す人なのかなと思ったり。
「ルナ。たぶんだけど、あの子達は何か理由があってここに導かれたのよ」
「導かれた?」
「そう。ルナも、何となく分かってるでしょ? 私たちの民宿が変わっているってこと」
遠くにいる彼女に向けていた視線は私の方へ。目が合っているわけではない。ただ、私の方へ顔を向けているだけ。一瞬空気を飲み込んで「あ、え」と覚束ない返事をした。
気づいていなかったと言えば嘘になる。自分が住んで働いているこの家は普通とは違っていると。視線を下に向けて小さく頷いた。
「やっぱり、そうよねぇ。いつだって来る人は限られているもの」
「でも、私たちには何も……」
「できないってことかしら? ただこの時代に飛ばされて来ただけの、私たちが」
ロロの言葉に口を閉ざした。彼の言う通りだったから。私には、何もできない。今まで人を殺めることはあっても救うことはできなかった。それしか知らなかったから。人は知らないことを行動できるわけがない。だから、私は無力だ。
「そんなわけないじゃない」
「え?」
「私たちだって、何かしら意味があって生きているのよ。今はそれを見つけることができてないだけ。頑張って探している途中なんだから、そんなに自分を卑下しないの」
「分かった?」とぐいっと顔を近づけてくる。急に距離を縮めてくるのでぎゅっと胸が苦しくなったのだが、すぐに頷いた。数分間は疑われているようだったけど、私が必死に首を縦に振っていたのを見て納得してくれたらしい。
「話を戻すわよ。しばらくはここに泊めようと思うけど、いいわよね?」
「うん、もちろん」
「ありがとう。ルナも話とか、いっぱい聞いてあげてね。女の子同士の方が話しやすいんじゃないかしら」
「まぁ、頑張ってみる」
生きている意味を、探している。今の自分にはまだ分からないけど。きっと彼女たちも同じなのだろう。いくつになっても人は存在意義を求めてしまうのだ。一種の本能かもしれない。
「じゃ、夕食を並べるわよ」とキッチンへと入っていくロロ。完成している鍋に火をかけ始めていたので私も急いで食器を用意した。
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