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「これ、めっちゃ美味しいです!」
「あら、そう? 喜んでもらえて嬉しいわ」
「久々に手作り料理食べましたよ。ほんと、うっま!」
「そんなに急がなくてもまだまだたくさんあるわよぉ!」
次から次へと口の中に運んでいく黒川さん。モグモグと口を動かしている姿はハムスターを思い出させる。「美味しい美味しい」とずっと言っているので作った本人であるロロは嬉しそうに彼女のお皿におかずを入れていく。
先ほどとは異なる服装でご飯を食べている黒川さんと白山さん。持ってきてもらった服の中からいくつか選んだようで、しばらくはそれを着るらしい。明日には二人で新しい服を買いに行くようなので数着で良かったとか。
「別に全部もらってくれても良かったのにぃ」
「いやいや、さすがにあの量の服をもらうのは気が引けますって! しかもあの中、いくつかブランド物ありましたよね?」
「え、そうだった? 着てない新品の服を持ってきただけだからなぁ」
「んっ! ゴッホゴッホ……あれ、新品なんですか!」
「そうだよー? だって、人の着たやつって嫌じゃない?」
「私は平気ですけど……っていうか、葉流さんって何者?」
食べていたご飯がむせたようで、すぐに近くにあった水を飲んでいた。彼女の視線は怪しい人を見ている目。対して葉流はさらっと話すので温度差が激しいようだ。
私はモグモグと唐揚げを食べていたが、白山さんも同じように手が止まっていた。向かい合わせに座っている彼女は長袖を選んだらしく、手首までしっかりと覆われている。
「ま、そんなことより! 二人って、どんな関係なの?」
「関係?」
「そう、関係。友達……って感じじゃなさそうじゃん? 何か理由があるのかなーって」
「あー……」
ごくん、と最後の一口を飲み込んだ黒川さん。山盛りになっていた皿と茶碗は空になっており、米粒一つも付いていない。全員の視線が集まる中、口ごもる彼女。白山さんも同じように動かしていた箸を止めて俯いた。
チラチラと隣の彼女を見つめると、黒川さんと目があった。こくんと首を縦に振るのを見た彼女は意を決したように話し始めた。
「そうです。私たちは、友達、ではないです。二人で一緒に逃げて来ました」
「駆け落ちってこと?」
「まぁ、そんなもんです。私たち、もとはバンドマンとそのファンの関係ってだけで。すみません、変なことに巻き込んで」
頭を下げる黒川さん。同様に白山さんも頭を下げた。二人のつむじを見つめる葉流さんは何か考えているのか、黙ったまま。明るい彼女が何も言わないときが一番怖かったりする。
「それで、ここにたどり着いたってことかしら?」
「そうなんです。二人で歩いていたら突然この民宿が現れて。なんかよく分かんないけど、行かなきゃって思って」
「なるほどねぇ」
抹茶を飲んでいたロロは口元に手を当てる。彼も何か考えているらしい。おおよそ想像はつくが、おそらくこの民宿についてだろう。きっとロロはだいぶ前から気づいていて、特に困ったこともなかったから黙っていたのだ。二人の様子を見ていると、これまでと同じようにワケありの人のはず。
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