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「神様って、何のことだろう。あの神社の神様のことかな」
「あら、ここら辺に神社ってあるの?」
「へっ? く、黒川さん……」
「やぁ! ルナちゃんも、早朝の散歩?」
サラッと流れる短髪の黒髪は美しく、一つも色が混ざっていない。私と同じ色だ、と思いつつカラスを思い出していた。突然の登場により目を見開いたのだが、軽く話しかけてくるのでそこまで身構えずに済んだ。座っていた私の横に腰を下ろし、「寒いねぇ」と腕を摩っている。
「黒川さんも散歩ですか?」
「質問を質問で返すかぁー。まぁ、そうだよ。思ったよりも寝れなくてね。初めてだもん、駆け落ちなんて」
へへっと照れ臭そうに笑っている。駆け落ちというのは、何となくしか知らない。私の国でも似たようなものはあったけど、どこの国もきっと変わらないのだろう。叶わない何かが会った時に逃げ出すのが最終手段なのだ。
「駆け落ちって、好きな人同士のことですよね。二人は付き合ってるんですか?」
「んー、難しい質問するねぇ。そうだなぁ、付き合ってはないかな」
「じゃあ、何故二人で逃げ出したんですか?」
「全てを投げ出してでも一緒にいたいと思ったから、かな」
ヘラヘラ笑っていた顔が一瞬だけ真剣な顔に変わった。しまったと思った時には遅く、失礼なことを聞いてしまったと後悔した。笑っている彼女は綺麗だったけど、人を想っている時の顔は違ったから。こっちまで胸が締め付けられた。「まぁ、適当だけど!」と明るく振る舞う黒川さん。大きく伸びをして深呼吸をしている。
「凄い、ですね」
「何がぁー?」
「全てを投げ出してでも、一緒にいたい人と巡り会えたってことですよね。羨ましいです。私には、到底真似できません」
「えー? そんなことないって! 人間、思い切ったら案外何でもできるもんだよ」
笑っているけれど、それがかなり乾いているものに見えて私は何も言えなかった。何でもできるということは、よく知っている。自分が何度も思ったことだったから。
はぁーと薄く白いもやを作っている黒川さんは腕をさすっている。寝る前と同じ服でここにいるから寒いのだろう。「よければ」と自身のカーディガンを脱いで差し出す。
「え、いいよいいよ。ルナちゃんの方が寒いでしょ」
「いえ、このくらいの寒さなら慣れているので。どうぞ」
一度こちらへ突き返されてしまったが、ぐいっと押すと「そー?」と言いながら袖を通した。私よりも大きいと思ったけど、すっぽりハマっている。着てきてよかった、と思いつつ海をもう一度見つめ直した。
「てか、ここら辺に神社ってあるんだね。何の神様?」
「確か、家庭円満とか商売繁盛だったかと」
「おお、ルナちゃん達にはピッタリだね! 私も行ってみようかなぁー」
「山の上にあるのでちょっと大変ですよ。階段が物凄い数あるので」
「うげ、マジで? それはちょっと……」
明け透けに顔に出る黒川さん。化粧は落ちているけど、素肌のままでも美人のようで今でも絵になっている。「でも、ご利益はありますよ」と付け足すと数分唸っていた。きっと行くかどうかで悩んでいるのだろう。悩むくらいなら行けばいいのにな、と思いつつ口を閉ざした。
彼女の前では、自分のことを話そうと思えなくなる。何というか、黒川さんと私の間になる大きな溝を見せつけられているようで。
「もうそろそろ戻りましょう。体も冷えていますし、ロロも朝食の準備を始めているかと」
「お、ロロさんの朝食かぁ! いいねぇ、楽しみぃー」
間延びした声で嬉しさを表すかのように両手を上げている。私より十歳以上年上なのに全く感じさせない行動。大人びた子供というイメージがあるのだが、言葉にすると何か違うような。チグハグな考えを端っこに置き、私は先に立ち上がって民宿へと向かった。
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