第五話『何時かの時計は涙を流す』

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室内に入った時には出る前には感じなかった暖かさと朝食のいい香りが広がっていた。昨日あれだけ食べたのにお腹は空いているようで、黒川さんは「紅葉呼んでくる!」と二階へ行ってしまった。 手伝おうかと考えていたが、昨日のことがありキッチンには行きにくい。意識しているのは私だけかもしれないけれど、ロロに無視されたら。そう考えると思考に霧がかかったように鈍くなる。テーブルの周りで一人悩みながらウロウロしていると「ルナ」と名前を呼ばれた。 「あ、ろ、ロロ」 「ここで何してるのよ。ほら、あんたも手伝って」 「う、うん。分かった」 キッチンの中へと顔を引っ込めたロロ。私は急いで向かい、すでに入れてあるお味噌汁と作り置きされているおかずを手に持ち、テーブルの上に置いた。 三人分には少し多すぎる量ではあるが、昨日の食べっぷりを見ているとこれくらいがちょうど良いと判断したのだろう。人数分の橋と皿を持ちもう一度戻ると、黒川さんと眠そうにしている白山さんが座っていた。 「あ、おはようございます。よく眠れましたか?」 「おはようございます。はい、こんなにもぐっすり寝れたのは久しぶりです」 「それは良かったです。ちょうど朝食の準備が終わったので一緒に食べましょう」 やったーと元気よく両手を上げる黒川さん。彼女の横で白山さんはクスクスと笑っていた。付き合ってはいない、と言っていたけど互いに想い合っているのは目に見えている。口には出さないけれど、二人の目が語っているのだ。 「あら、もう揃っていたのね。ほらほら、今日は葉流が迎えに来るんだから食べちゃいなさいよ」 キッチンから出てきたロロは身につけていたエプロンを外していた。片手には自身の朝ご飯であろう飲み物を持っており、ちらっと顔を見る。いつもなら読み取れる表情が、今日は何も分からない。 人のように表には出ないだけで、約二年間ずっと一緒にいるからなのか自然と分かるようになった。でも、今は違う。 「ルナ? ほら、あんたも食べちゃいなさい。一緒に買い物に行くんでしょう?」 「え。あ、うん。そうだね」 名前を呼ばれてハッとする。すでに座っているロロは不思議そうに私を見ていた。私だけ席についていないので急いで座り、「じゃ、せーの!」の合図とともに「いただきます」と挨拶をした。 目の前に広げられているのは昨日より少し減った量の料理たち。どれも出来立てのように湯気が立ち上っており、食欲をそそる香りで充満されている。いただきますのタイミングで食べ始めた黒川さんはもぐもぐしながら「うまーい!」と次から次へと胃の中へ入って言っているようで。
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