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「楓、頬にご飯粒ついてるよ」
「んー? どこー?」
「ふふっ ほら、ここだよ。もう、子供っぽいんだから」
えへへ、と笑っている黒川さん。私たちは目の前で何を見せられているのだろうか。箸を持ったままぼーっと二人のやりとりを見つめる。
いいなぁ、幸せそうで。こんなにも幸せそうなら、私は必要ないのではないだろうか。ぼんやりと時計頭の彼に言われたことを思い出し、虚空を見つめた。
「本当、二人は仲良しねぇ。まるで恋人みたいじゃない」
「え、そう、見えますか?」
「そりゃあねぇ。私とルナの前でそんなにイチャイチャされたらそう思っちゃうわよ」
「そっか。私たち、恋人同士に見えるんだ」
良かった、とボソッと聞こえた声。聞き取れるか聞き取れないかの狭間ではあったけど、私の耳には届いた。白山さんの不安そうな声。ふと視線を隣の彼女に向けると、照れ臭そうにしていた。
恋人同士に見えるのが、嬉しいのだろうか。女性同士のカップルはよくあることだと思っていたけど、この時代ではそうではないのかもしれない。二人の反応にどうすれば良いのか分からず、冷めかけの味噌汁を一口飲んだ。
「女同士で変だって、思いませんか?」
「そうかしら? 人を愛することに関係ないわよ」
「そう、言ってくれるんですね。嬉しいです」
「まぁ、私たちもどちらかと言えばはぐれ者だからね。それに、誰が誰を愛そうなんて他人が決めることでもないと思うわ」
ずずずっと残りの飲み物を飲み干した音がした。口の中にご飯を入れ、味付けの濃い肉も同時に入れた。はぐれ者と言われて別に嫌な気持ちにはならない。自覚はしているし、実際に私たちは違う時代から来てしまったのだから。ロロの言葉を聞いた二人は「そうですよね」と言いキュッと箸を握っている。
「そう言えば、お二人は家族なんですか?」
「私たち?」
「そうですよ。二人ともめっちゃ仲良しだなーって思ってて。ね、紅葉」
「そ、その、微笑ましいなって、思ってたんです」
コクコクと頷く白山さんは可愛らしい。キラキラした目で私たちを見ている。仲が良いとは言われるけれど、そこまで首を突っ込まれるとは思わなかった。ぎゅっと心臓を掴まれる感覚。私は「え、いや、その」と口ごもり隣にいるロロを見上げた。
「私たちは、ただの家族よ。血の繋がりはないけど、大切な家族」
「そうなんですか? でも、二人とも……」
「家族よ。私たち、本当に仲が良いの」
「ね?」と同意を求めるように私を見たロロ。私は、頷くことしかできなかった。そう、私たちは家族。唯一無二の家族。血は繋がってないけれど、あの日からずっと一緒にいる大切なパートナー。でも、それは私が望んでいるような関係ではない。
ダメだよ、私。ここで泣いたらダメ。強く握った箸はパキッと音がした。ヒビが入っているのを見て、急いで用意された自分のご飯を食べて「ごちそうさま」と言って私を呼ぶ彼の声を無視した。
「私、出かける準備するから」
「そ、そう? あの、ルナ……」
「何?」
「……何でもないわ。もうそろそろ来ると思うから、早めに準備するのよ」
「うん」
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