23人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
ずんっと重くなった空気から逃げ出した。いつもなら片付ける食器もそのままにして早歩きで部屋に向かった。後ろから「え、私まずいこと聞いたかな」と不安そうにしている黒川さんの声が聞こえた。
彼女たちのせいではない。ただ、私が弱いだけだから。今の関係に甘えて自分からどうにかして変えようとしないから。バタン、と強く襖を閉じてから力が抜けたように畳の上に座り込んだ。
「……こんなにも、大好きなのに」
神様はどの時代でも不平等だ。一人の人だけに全てを背負わせて、他の人間には何も課すことなく生かせる。ボロボロと服の上に、畳の上にシミを作っていくのを見つめた。泣いていても何も変わらない。
でも、今くらいは、少しくらいは許してもらえるだろうか。ぎゅっと拳を作って自分の手を傷つける。たくさんの人を葬ってきた私でも、ほんのちょっとだけ、一人で涙を流す時間が欲しいの。
「準備、しないと」
ギリギリと音を立てていた手を緩める。ぬるっとした感覚がしたので見てみると、血が出てきていた。このくらいなら放置していても治るだろう。洋服にはつかないようにしないと。
事前に準備していた洋服を手に持ち、着替えた。鏡なんてものは私の部屋にはないので軽く確認して着るだけ。あとは変な匂いしないとか、清潔感を心がけていればそれでいいから。
「ルナちゃーん! 葉流さん、迎えに来たよー」
「あ、はい。すぐ行きます」
先行ってるね、と最後に声をかけて去って行く音が聞こえた。思ってたより早かったらしい。まぁそれでも二十分前だからいいかな。いつもは持ち歩かない小さいカバンを手に持って廊下へ出た。
先に見える玄関ではすでに準備を済ませた黒川さんと白山さん。駆け足で近づくと「おはよ!」と元気よく挨拶をしてくれた。
「おはようございます、葉流さん」
「ちょっと早く着いちゃった! もう行こうと思ってるんだけど、大丈夫そう?」
「はい。私はいつでも」
「了解! じゃ、出発しちゃいましょ!」
浮き足立っているらしい彼女は「おー!」と言いながら片手を上げていた。同じように黒川さんと白山さんも腕を上げているので、私はじっと見つめていた。すると、「ルナちゃーん?」と変な圧を感じたのでおずおずと上げると満足そうに葉流さんは微笑んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!