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「あら、ちゃーんと温まってきたかしら?」
「はい! すみません、ありがとうございます」
「いいのよ。女の子が体を冷やしちゃ悪いからね。あ、ルナ! またつまみ食いしようとして!」
ぺちっと叩かれているのはホカホカに温まったのが分かるルナちゃん。ほんのり頬が赤らんでいるのはその証拠なのだろうか。長めの袖に下は少し余裕のあるパンツ。ガウチョまでとはいかないが、足元が少し開いているのでチラチラと絹の肌が見える。
ロロさんに手を叩かれた彼女はむぅと頬を少々膨らませている。昨日はそんな姿を見なかったけど、意外と表情豊かなのかも。可愛らしい場面もあるんだな、と年相応であることに安心した。
私が椅子に座り目の前に置かれる朝食を見つめる。昨日よりかは品数は少ないが、私からしては豪華な内容だ。
「これ、今日もロロさんが?」
「えぇ。栄養が偏らないようにちゃんと勉強したのよ?」
「へー……そこまでしてるんですか」
「そりゃそうよ。私は食べなくていいけど、あなた達は違うんだから」
カタっと置かれたのは味噌汁。でも、昨日とは違う具沢山の味噌汁。ゴロゴロに入っているのを見て、口の中に唾液が溜まった。ロロさんの話を聞いていると、見た目は変わっているけど中身は人間と一緒。
ただ一つ違うのは、食べ物を必要としてない。
飲み物は飲んでいるので味覚はあるのだろう。ただ固形のものが食べられないだけ。自分は必要ないことを勉強して他人のために努力ができるなんて。
「素敵な人ですね」
「え?」
「あっいや、その」
「ふふっ ありがとう」
ピタッと止まった彼の腕はちょうどルナちゃんのお味噌汁を置いたところで。タイミングが悪かったなとか、変なこと言っちゃったかななど思ったけど。それらを全て吹っ飛ばすような感謝の言葉に心が素直に嬉しかった。
でもロロさんの笑いは、嬉しそうだったけど、少し悲しみも含んでいる気がした。なんというか、言葉にはできないけれどきっと色々あったんだろうなって。曖昧な表現だけど、深くは突っ込むことはできない。つられるように私も笑って、「ほら、食べるわよ!」と小さい鍋を置いた彼が座った。
「せーの! いただきます!」
「いただきます!」
元気よく挨拶をして、具沢山味噌汁に手をつける。昨日も同じことをしたような。どこでもいつでも食べれるのになぜかロロさんのスープが恋しいと感じるのだ。不思議な感覚、といえばそれで終わるけれど、きっと人を想って作っているからなんだろうなぁ。
味噌以外にも野菜の甘みが口の中に広がり、ふぅと一息つく。シャワーで体を温めても体の中心はそう簡単には変わらないらしい。足りない部分が満たされていく感覚で思わずため息が出るのだ。
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