第一話『玉響の行き違い』

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第一話『玉響の行き違い』

「あー……あっつ」  額から頬にかけ、そのまま勢いよく顎から落ちていく汗。ぴっちりと引っ付くのは新品のシャツ。色合いが夏らしいと思い気に入って買ったのにも関わらず、すでに汗でビッショリになっている。 ここに来る前に見たスマホの天気予報ではカラッとした晴れが続くでしょうと言われていた。しかし、実際はムワッと湿度を感じられずにはいられない天気。どれだけ日本が平和になろうと、この暑さでは死人が出てもおかしくない。私、小玉(こだま)璃菜(りな)はその人りになってしまいそうだ。 『まもなく次の駅に到着します。お降りの方はお忘れ物のないようにお願いします。次はー……』  駅名が絶妙に聞き取れないことにイラつきつつ、それよりも何故このご時世に冷房が電車内にないのかと足をトントンと動かす。相変わらず、ここは田舎だ。 スピードを落としつつ小さな駅が少しずつ大きくなる。何度も手をパタパタと動かして風を送るが全く涼しくなる気配がない。どちらにせよ次の駅で降りるのだ。聞き取れなくても、幾度も使った駅は忘れることなどできない。 田舎に遊びに来るにしては不似合いなスーツケースを持って立ち上がる。目に入ってくる景色を見ながらこれからの予定を頭の中で反芻する。誰にも知られたくないこの計画。 上手くいくかどうかは、自分の運にかかっているのだから。
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