第一話『玉響の行き違い』②

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「さて、準備しようかな」 近くに置いていたスマホで時間を確認すると、もうそろそろお昼を過ぎそうだ。わざわざこの時間に設定したのだから、遅れるわけにはいかない。二人と話したことにより少しずつ頭が冴えて来たので布団から出ることに。 ロロさんはあのまま下に降りて行ったようで布団を畳んでいる時に階段を降りる音が聞こえた。 「ルナちゃんはこれからどうするの?」 「あと一時間後くらいに夕飯の買い物に行く予定です」 「そうなんだ。そういえばルナちゃんってすごい力持ちだよね。何か運動とかやってたの?」 「いえ、鍛えられただけです」 さりげなく片付けの手伝いをしてくれる彼女はいつの間にかもとの表情に戻っていた。鍛えられた、とは言っているけどあんな細いのに鍛えていたと思うと私もまだまだだなぁ。 中学から長い間バスケットボール部に所属していたから筋トレはかなりして来たつもり。普通の女の子よりも力はあるが、彼女ほどではない。お風呂では傷にしか目がいかなかったけど、綺麗に引き締まっている筋肉であろうことを想像した。 「では、私はロロの手伝いに行ってくるので。璃菜も気をつけてください」 「うん、ありがとう」 ぺこりと頭を下げてパタパタと去って行った。艶のある黒髪がしなやかに動いて行くのを見送った後、「よし」と一人で気合いを入れる。キャリーケースの中に入れてある小さめのカバンを取り出し、必要最低限の物を突っ込んだ。 急いでいるのもあり扱いが雑になってしまったのだが、仕方ない。スマホを手に取り、以前から聞いていた彼女の居場所を確認する。 「これって、ストーカー……いやいや、そんなことないし。うん」 一瞬、嫌なことが頭の中に浮かんだがすぐに否定する。中学からの友達と話していた時に流れで聞いただけだから。 カバンを肩にかけて目的の場所を目指すために急いで階段を降りる。玄関で靴を履いていると、「転ぶんじゃないわよ!」とロロさんの声が聞こえた。 「はーい! じゃ、行って来ます!」 元気よく叫んですっかり日が昇っている明るい外へと向かって行った。
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