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「あの、大丈夫、ですか?」
頭上から降りかかって来たのは女性の声。下を向いて冷たいタイルの上に座っている私はゆっくりと顔を上げた。そこには眉尻を下げて私を見つめる一人の女性。私の両親くらいの世代だろうか。目元にシワがいくつか見えるが、ホッとする安心感がある。
「ご、ごめんなさい。邪魔ですよね。今すぐどきます」
しゃがんだ時に置いたカバンを肩にかけ、急いで立ち上がろうとする。フラフラしながら立つと、トンッとぶつかる。
「すみませんっ」
「いいのよ。ねぇ、あなた今から予定あったりする?」
「え? いや、特には……」
「じゃあ、ちょっとお話ししましょ?」
ニコッと微笑む女性。よく見たら彼女と同じエプロンを着けていることにやっと気がついた。きっとさっきのやり取りを見ていたのだろう。少し恥ずかしくなったが、特に何もする予定のない私は大人しく頷いた。
どことなく品を感じる彼女は外で待っててと言って、バックヤードへと戻って行った。私は軽く裾を払って汚れを落とし、言われた通りに向かう。ウィーン、と音が鳴ると涼しさを全て吹き飛ばすような暑さが襲ってくる。アイスでも買えばよかったかなぁ、と後悔した。
ロロさんとルナちゃんのために買おうとした商品は先程の女性が一緒に片付けてくれたらしい。お礼を言うのを忘れてしまったので、後で言おうと空を見つめながら考えていた。
「あ、いたいた! ごめんねぇ、暑いでしょう。ほら、これ食べて!」
手を振って来たのは私服に着替えたのか、上品な服装をした女性。一瞬誰か分からなかったが、先程の人だと気づき頭を下げた。
「えっ これ、もらってもいいんですか?」
「いいのいいの! ほら、あそこで食べましょ!」
彼女が指差した先には木陰になっている公園。いつもは子供達が遊んでいるのだろうけど、この暑さだからなのか誰もいない。ポツンと置かれたベンチは陰になっているようで涼むことはできそうだ。私は彼女にされるがままに着いて行き、横並びに座った。
「えっと、お姉さんは……」
「いやぁねぇ、お姉さんって歳じゃないわよぉ。気を遣わせてごめんなさいねぇ。私、斉藤って言うの。それで、あの子と何かあったんじゃないの?」
「え?」
「ほら、さっき話していたじゃない? もしかして、あの子から聞いていたことなのかなーって思ってね」
「あ、溶けるよ!」と言いながら自身のソフトクリームの横の部分を舐める。この暑さだからか、じわじわと溶けていくのを見て私も口にふくんだ。甘い香りが鼻をくすぐり、口の中いっぱいにバニラの味が広がる。むわっとした暑さの中での冷たさは特別感がある。
「あの、美凪と仲が良いんですか?」
「んーまぁ、そうねぇ。よく話をしているわ。いつも穏やかな子だから、あんなことを言うなんて何かあったのかと思ったの」
チラッと私を見た斉藤さんは視線を正面にあるブランコへと向けている。誰もいない公園はブランコは揺れることもなく、ジッと誰かが来てくれるのを待っているようだ。
寂しげに映るのは私の心が孤独を感じているからなのだろうか。彼女の話を聞いて、相変わらず人と仲良くするのが上手だなぁと学生時代を思い出す。
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