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「ははっ……何で、私……」
「……璃菜? ここで何をしているんですか?」
目の前が真っ暗になった私に声をかける人。地元だと言うこともあり、友人か誰かに見られたのかと冷や汗が出た。しかし、それはついさっきも聞いた声。
振り返ると、そこには手にいっぱい荷物を抱えたルナちゃんがいた。両手にパンパンの買い物袋を持っている。どう見ても重そうなのに、平然と持っているのを見て驚きを隠せない。
「ルナちゃん、何でここに……」
「それはこちらのセリフです。璃菜の予定はここだったのですか?」
「ま、まぁね」
涼しい顔をしているのだが、少し驚いているようにも見える。少しずつだけど分かるようになってきたような。いや、それよりもこの状況をどう説明しようか。すっと目線をそらしてしまう私はまだ弱い。
ぼうっとしている頭の中で考えているが、油のさし忘れた機械のように動かない。ギギギと鈍い音がする。
「追いかけた方が、いいのではないですか」
「え?」
「今の人、大事な人なのでしょう?」
まさか言い当てられるとは思ってなかったので勢いよく振り返った。ルナちゃんは、私をジッと見つめる。軽くだけど、話していた内容で察したのだろうか。本当に人をよく見ている子だ。年下に気を遣われるなんて、年齢はただの数字であると思い知らされる。
「大事な人、だよ。でも、もう無理なんだ。元の関係には戻れな……」
「彼女は、そんな言葉が欲しいんじゃないと思います」
「そ、れは、どういう……」
「親友だって、言って欲しかったんじゃないですか」
「親友?」
「『私たちは親友だ』って、その言葉が欲しかったのではないですか?」
そうか。何かがお腹の上にストンと落ちた。ずっと前に話していたことを、彼女は覚えていたんだ。私が彼女に言い放った言葉を、ずっと胸の中に押し殺していたんだ。喉から手が出るほど欲しかったのは、私からの言葉だったのか。
「何か思うことがあるのなら、すぐに伝えるべきです」
二度目の彼女の言葉は、確実に私の心へと突き刺さった。人は、いつ死ぬか分からない。現代においてその言葉は通用するのだろうか。でも、人生は物語とは違って唐突に不幸が訪れたりする。だからこそ、目の前に大好きな人がいるのだから伝えるべきなのだろう。
「私、行ってくる」
「はい、お気をつけて」
ルナちゃんの言葉が後ろに聞こえた。自分で発言した時にはすでに走り出しており、他のことなんて気にも留めなかった。履き慣れた靴で来た自分を褒めながら、ただひたすらに走った。
ここら辺は見覚えがあるので迷いなく追いかける。ここから彼女の家までは約十五分ほどだったはず。確証はないけれど、ここを去って数分しか経ってないから頑張れば追いつく。現役ほどではないけれど、そこそこ足が速かった私はぐんぐんスピードを上げた。
「たぶん、ここら辺の、はずっ……」
はぁ、はぁ、と息を切らせながら足を動かすスピードを遅くする。中学生の時に何度もこの道を使っているので懐かしく思いつつ、キョロキョロと当たりを見渡した。もう、帰っちゃったのだろうか。
ふぅ、一息ついて歩きながら探していると「やめてください!」と叫ぶ声が。聞こえた方向へ足が勝手に動いていく。あの声は、間違いなく彼女だ。彼女の身に何かあったのだろうか。ドクドクと全身に血が回っている感覚がして、耳に心臓があるんじゃないかと勘違いしそうだ。
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