第二話『ゆめうらら』

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「さて、と。一応、今日もお供え物持って来たけどこれでいいのかしら」 ゴソゴソと袖の中を探しているロロ。羽織物ではあるが、袖に少しだけ物を入れることが可能なので気に入っているとルナに話していた。そんなお気に入りの袖から出て来たのは袋に入った油揚げ。 この時代と国に疎いロロは神社へのお土産は油揚げと決まっていると聞いたらしい。それ以来、何かとスーパーで買った油揚げを懐に入れて通っている。未だにそれが本当か信じられないロロは毎回半信半疑で置いている。 「まぁでも、いつも次の日にはなくなってるし。これで正解なのよね、きっと」 丁寧に袋から出していつも置いてある皿の上にそっと置く。丁寧に、とは言っても備えるだけなので変わらないかもしれないが。ただ、気持ち的にお世話になっている相手に対してぞんざいな扱いはできない。 そこそこの見栄えになったのを確認し、一歩二歩下がって正面に立つ。初めて来た時には勝手が分からなかったのだが、すぐに慣れた。 「いつの時代でも、人間って不思議ねぇ」 一礼したあと、パンパンっと二拍手して少し頭を下げる。願い事をしているのかと思われるが、ロロは違う。本来神社に願い事をした時、叶った時のお礼も必要だと言われているとか。それもここに来てから教えてもらってので、このように少し手間でも来ているのだ。 「……さて、これでいいかしらね」 顔を上げ、もう一度礼をして数歩後ろに下がる。一通りお参りを終わらせたようでキョロキョロと辺りを見渡している。何か探しているのか、と思いきや「あら」と声を上げて何かを見つけたらしい。スッと屈んで拾い、油揚げが置いてある隣に二つか三つほど置いた。 「これもおまけよ。食べるかはわからないけど」 ふふっと笑って社に背を向けた。コロンと置かれたのはどんぐり。まだまだ秋は先だと思っていたが、山は順調に季節を刻んでいるらしい。 肌では感じないものは目で感じる。それがきっと彼なりの時の刻みかたなのだろう。あれほど息を切らしていたロロはすっかり上機嫌なようで鼻歌を歌っている。 今日も今日とて一日が始まる。 誰が来るのか、それとも誰も来ないのか。誰にも分からない。 だからこそ、ロロも、神様も一緒に楽しんでいるのであろう。 たった二人きりの、セカンドライフを。
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