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チリン。
「いらっしゃいませ」
ビクッと肩を揺らす。風鈴の音と共に現れたのだろうか。私より少し背の低い女の子が人り。星人は、していないのだろうか。顔立ちから少しだけ幼さを感じる。
一歩下がった私は「こ、こんにちは」とうわずった声で挨拶をする。いつの間に目の前に来たのだろうか。足音も何もなかった。泊まりたいとは思ったけれど、こうも突然現れると恐怖の方が勝ってしまう。
「あの、ここに泊まりに来たんですけど……」
「お客様ですね。こちらは後払い制になっております。よろしいでしょうか?」
「あ、はい! 後払いね!」
「では、こちらへご案内します」
一瞬だけこちらを見上げ、説明をした彼女。黒く長い髪で見えなかったが、よく見たら瞳が緑色だった。緑色、というよりも宝石のエメラルドグリーンのような。他にも緑色の宝石あった気がするけど、と一人で考えていると私のキャリーケースを掴んだ。
「こちら、お部屋までお待ちします」
「え? あ、ありがとう」
ぺこりと頭を下げてズッシリ詰まっているキャリーケースを抱えた。あまりにも軽々と持っていくので「え!」と大きな声を出したしまった。私より一回り小さく細い彼女が石を持つような感覚で持っている。
数メートル先にいる彼女は振り返り、「どうしましたか?」と頭を傾げる。当たり前のことなのか、私の反応がおかしいのか。表情が一切変わらない彼女に向かって「あ、いえ……」と言葉を濁す。すると納得したのか、またスタスタと敷地内へと歩いて行ってしまった。
自ら望んで来たけれど、こんな調子で大丈夫なのかと心配になる。場所を間違えたかと思いもう一度看板を見ると、先ほどと変わらず『涙と時計の館』と書かれていた。ネットと人の噂だけを頼りにしたら、本当に出会ってしまったのだ。
「ここまで来たら、やるしかないよね」
誰に向かって言っているのか分からない言葉を置き去りにして、私は玄関で待っている彼女の元へと走って行った。
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