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悪夢を見る時は何かのお告げとか言うけれど、私はそうは思わない。いや、思えないのかもしれない。
だって、私にとっての悪夢はいつも同じだから。
始まりは大体、そう。今日と同じような暑い暑い夏の日。切羽詰まった私と、彼女。人生の半分以上を過ごして来た思い出はいつまででも色褪せない。この関係が大人になっても、結婚して子供が生まれても続くと信じて疑わなかった。そんな、青春時代に一つの影が落とされる。
『……あんたのせいだよ』
溢れる言葉は相手の口から、ではなく、私の口。操作の効かない暴走機関車のようにスラスラと出る乱暴な言葉の数々。
『あそこでミスをしていなければ』
思ってもいない言葉のはず、なのに。滑り落ちていく感覚。ハッとした時には、すでに遅かった。信じられないものを見る目。そして、目の前には涙をいっぱいに溜めた一人の女の子。
どこからどう見ても悪いのは私で。焦って謝ろうと言葉にした時には、彼女と私の間には断崖絶壁があった。飛び越えられない、埋めようとしても焼け石に水。どうしようもできない状況になってから私は叫び、涙を零して、目を覚ますのだ。
「……また、見ちゃった」
たらりと垂れる汗は寝ている間に流れ出たものだろうか。畳の下がしっとりとしている。ふとお腹に違和感を感じて見てみると、大きめのタオルケットがかけられていた。ふんわりと香る柔軟剤の匂いはどこか懐かしい。そっと畳んで床におくと、ノックが聞こえた。
「はい」
「失礼します。早いですが夕食の準備ができました」
「あ、今行きます」
リズムよく階段を降りる音が聞こえた。あの少女がわざわざ知らせに来てくれたようだ。このタオルケットも彼女によるものだろうか。少し人とは思えない雰囲気を持っている彼女は一体何者だろうか。
人のことを詮索するのはよろしくないが、ここに泊まるのだから気になってしまう。ふと外を見ると、少しずつ太陽が傾き始めているようだ。夏だということもあり、まだまだ日は高い。
放り出していたスマホを手に取り時刻を確認する。確かに夕食には早いようだが、気になる範囲ではない。
「これ、返した方がいいよね」
せっかくの夕飯が冷めてしまう。ぼうっとしている場合ではない。簡易的な机の上にスマホを置き、代わりに畳んだタオルケットを手に持って立ち上がった。
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