第一話『玉響の行き違い』

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「ふふっ そんなに急がなくても大丈夫ですよ。ルナ、まだいただきますしてないから触っちゃダメ」 ぺちっと叩いた彼女、ルナの手は密かに漬物を狙っていたらしい。意外な行動に笑みがこぼれた。二人分の食事を準備した後、鍋に蓋をして大人しくしている彼女の横に座った。 しかし、彼の前には飲み物しか置かれていない。不思議に思っていると、「私、飲み物しか飲まないので」と言われて納得した。 「じゃあ、いただきましょうか。せーの! いただきます」 「いただきます」 手を合わせて唱える。給食を思い出すなぁ、と思いつつ早速お味噌汁に手をつけた。味噌の匂いはどこへ行っても安心する。味噌汁が好物とかではなく、あれば嬉しいと思えるのだ。ほんわかとお椀越しに伝わる温かさに安心感を抱きつつ、口に運ぶ。 「えっめちゃくちゃ美味しい……」 「あら、そう? ありがとう」 勝手に口から溢れた言葉は心の底からのもので、どこぞの旅館かと思うほど上品な味をしている。次から次へと口の中へ具材を運んで堪能していると、目の前に座っている女の子は表情を一切変えずに黙々と食べている。美味しいとか言わないのかな。 でも、毎日こんなに美味しい料理を食べてたら舌が肥えそうだ。チラッと隣のロロさんを見ると、自分で用意したのか緑色の液体を飲んでいる。何か特別なものだろうか。青汁とか飲んでいるのかなと想像をしていると、「そういえば」と話を始めた。 「よくここを見つけましたねぇ」 「え? あ、その、いつの間にかそこにあったと言うか……」 いきなりそこに現れました、なんて言っても信じてもらえないだろう。それこそ異形頭の方がまだ現実的だ。だって、目の前にいるし。 適当にお茶を濁して漬物に手をつけた。かりこりと音がして、ほのかに酸味を感じさせる。漬物はどうしてこうもご飯が進む料理なのだろうか。キラキラと光るお米を口の中に入れて幸せを噛み締めた。
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