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「あら、やっぱり? まぁここら辺だとよくあることだから大丈夫よ」
「は、はぁ……」
ブーンと聞こえるのは換気扇の音だろうか。消し忘れなのか、それとも匂いがこもっているからなのか。曖昧な私の返事の後は少しだけ沈黙が続いた。黙々と口の中に運んで今日のエネルギーを蓄える。
お味噌汁を最後の一口を飲んだ後、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。夏だけど、温かいご飯は元気が出る。いつだって寒さは人間の敵だ。
「満足してもらえました?」
「もちろんです! こんなに美味しい夕飯久しぶりで……しばらく食べれると思うと、元気が出ます」
「そう、良かった」
少しくだけた話し方をする彼は、優しさに満ちているようで。隣にいる少女の姿を時々見つつ、食べ方が汚いだの好き嫌いはしないだの注意していた。どうやら彼女は野菜が好きではないらしい。
特に今日出ていた野菜炒めの中に入っているピーマンと人参を器用に避けているのを見ていた。それを目ざとく見つけたロロさんは彼女のご飯の上に乗せて食べるように催促する。まるで……
「親子、みたいですね」
キョトン、とした顔をするロロさん。本当にそんな顔をしているかは分からないが、こちらの方を見ているような。引き続きモグモグと口を動かす彼女。
「ふふっ親子かぁ。確かに、そんな感じかもしれないわね。ルナもやっと、人間らしくなったのかしら?」
「人間らしく?」
「ううん、何でもない。あ、もうこれからタメ口でもいいかしら? お客もあなただけだし、自分の家のようにくつろいで構わないから」
「あ、はい!」
「いい返事ね。じゃあ、後は片付けるからお風呂入っちゃって!」
ガタッと席を立った時にはロロさんのグラスは透明になっていた。私の前に置いてあった器を重ねて向こうへ持っていく姿を見つめる。人間らしさ、とはどういう意味なのだろうか。
最近では異形頭の人の方が人間らしい時があると聞いたことがあるような。完璧な人間である人が人間味がなく、物から生まれた彼らが人間味を持っているなんて。そもそも完璧な人間って何だろうか。そんな人の方が少ないはず。
そもそも私自体、ちゃんとした人間なのだろうか。
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