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インターホンが鳴り、私は玄関のドアを開けた。
ドアの目の前、アパートの共用通路に大きな段ボールが置いてある。
高さは私の背より少し低いくらいだ。
宛先欄にこのアパートの住所と、北川侑李――私の名前が書かれている。
送り主は、大手旅行会社。
受け取りサインをして、一度玄関の中に戻る。
「ありがとうございまーす」
外から声がしたのを確認し、私はもう一度ドアを開けた。
受け取りサイン部分が剥がされた段ボールを、斜めに倒し、部屋の中に運び込む。
ドアを閉める前に共用通路を確認すると、箱がどくのを待っていた隣人と目が合った。
「あ、どうも」
「すみませんでした」
会釈する隣人に頭を下げ、ドアを閉める。
段ボールの中身は、レンタルしたVR機材だった。これを何に使うかと言うと、旅行だ。
2×××年、世界は致死率50%の感染症が流行したせいで鎖国し、都市も全てロックダウンしている。
宅配便は非対面受け取りだし、コンビニやスーパーは無人レジ。
飲食店はほぼ全てテイクアウトに対応し、イートインは全面禁止となっている。
仕事も、製造業や建築業以外は全面リモートワーク化した。
より快適なリモートワークをするためのサービスも日々生まれている。
流行から2年のこの感染症は、医療現場をひっ迫している。
1年前に決まった鎖国とロックダウンの決定があと少し遅ければ、医療崩壊に繋がっていたとメディアは騒ぎ立てた。
しかし、長らくまともな外出が禁止されていると、うつ病が国民病になりそうな勢いで患者数を増やしてしまった。
それを受け、旅行会社が新しく提供し始めたサービスが、VR旅行である。
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