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葵の母親は息子に『葵』と名付け苗字を合わせれば『向日葵』と読めてしまうような名前をつけるほど花を愛し、店の名前だって英語のひまわりにするくらい一人息子である葵を愛しているし、朝から晩まで働く仕事熱心な人である。そんな母親は、葵にとって誇りでしかない。
そして、それは椿の家柄と比べるものではないし、どっちが上も下もないと思っている。人は等しく平等で、そんな付属品など、その人を表す役目を担わない。葵は葵だし、椿は椿だ。
「……ああ、でも……」
ああそうかと思う。女生徒が無邪気にやっているデートチャレンジなるものは、市ヶ谷家のお坊ちゃんである椿に対するもので、ひとりの人間としての市ヶ谷椿に対するものではないのだろう。お金持ちの、名家の、社長令息の市ヶ谷椿。常にそんな色眼鏡で見られるのはさぞや気分が悪いだろうと、葵は自分のことのように顔をしかめた。
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