Two Flower

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 だが、葵の両手が椿の胸に届く前に、呼吸ができなくなっていた。嗅いだことのない、いい匂いがする。それが椿の身体から発せられるものだと気付き、前髪が触れ合い、くちびるまでもが重なりあっている現実に、葵の両手はむなしく椿のシャツを掻いた。  押し付けられたくちびるはやわらかく、つい先ほど感じた体温よりも、もっと椿の熱を感じる。思わずぎゅっと椿のシャツを握ってしまい、触れるシャツ向こうの心音が、確かに葵の指をノックした。 「ずいぶんと静かになるんだな、蟻さん」  からかうように言われ、ハッとして椿の胸を押し返す。今さら。本当に今さら、キスをされたと気付き、葵は軽くパニック状態に陥る。 「っ、な、なにすんだよ、お前はっ! か、階段の踊り場だぞ!」 「階段の踊り場じゃなければいいのか?」 「そ、んなこと言ってねえだろ! つか、蟻っていうな! 俺は日向だ。日向葵!」 「ひなたあおい、ね。これに懲りたら、もう俺には関わらないことだ」  ふざけるな! と、顔を真っ赤にして怒る葵を見て、椿がふっと笑って階段をおりていく。
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