Two Flower

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 午後からの授業は散々だった。イチゴミルクを飲み損ねただけならまだしも、拭っても拭っても椿のくちびるの感触が離れていかない。それに、よくよく考えてみれば、あれは正真正銘ファーストキスだ。恋愛だってまだまともにしたことがないのに、どうして椿なんかにくちびるを奪われなくてはならないんだと憤慨するが、不思議なことに嫌じゃなかったから困る。  椿からはいい匂いがした。間近で見る椿の顔は、うっかり見惚れてしまうほど美しかった。くちびるはやわらかく温かかった。薄い皮膚に覆われたくちびる同士がくっつくのは、あんなにも気持ちいいのかと、葵は授業中そんなことばかり思い出して、赤くなったり青くなったり。  そのせいでノートは真っ白だし、部活中もぼんやりして、何度先輩にどやされたかわからない。椿に出会ってまだ二日しか経っていないというのに、葵の頭の中は椿でいっぱいだった。  帰り道もどこをどう歩いてきたのかわからないくらい、気がつけば『サンフラワー日向』の前に立っていた。店の電気はもう消えている。一階が花屋、二階が居住スペースとなっているため、店が閉まってしまえば外階段から玄関へあがるよりない。
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