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「例えばだよ? もし、父ちゃんがすんごい金持ちで、母ちゃんとは住む世界も身分も家柄も違ってたとしたら、ふたりは結婚してた?」
葵の質問に紫陽子は「なによ、それ」とケラケラ笑い、スプーンを置いて葵をまっすぐに見た。
「住む世界が違うって、陽一さんは一体どこに住んでるの。月? それとも火星とか?」
「ふざけないでよ」
「ふざけてないわよ。陽一さんは地球に住んでる設定なんでしょう? だったら、わたしと陽一さんは出会うし、恋におちて結婚するに決まってるじゃないの」
「ほかの設定はどこいったんだよ」
「どうでもいい。お金持ちだったら、わたしは陽一さんを好きにならないの? あるいは、陽一さんは、わたしのこと好きになってくれないの? 好き同士でも、身分の差がそれを許さないとか、ロミオとジュリエットでもあるまいし」
まったくもってバカバカしい。紫陽子はそんな顔をしている。やはり、そんな付属品などなにも関係ないのだ。椿がどこの誰であっても、彼には彼らしく生きる権利がある。紫陽子の言葉で確信を強めた葵は、今さらながら自分がものすごく空腹であることに気が付いた。
おかわりをすべく皿を持ち、炊飯ジャーからご飯を山盛りによそう。今度、椿に会ったらなんて言ってやろうか。葵はそんなことを考えて、ひとり笑うとカレーをたっぷりとご飯にまわしかけた。
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