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「いないなあ……」
もしかして、もう帰ってしまったのだろうか。さすがに三年生の教室まで覗きに行くことはできず、一通り校内をうろついたが、結局、椿には会えず終いだった。仕方ない。グラウンドへ戻るか。そう思った時、校門へと向かう生徒の中に椿の姿が──。
慌てて駆け出すも、椿はまた性懲りもなく女生徒数名に取り囲まれてしまっている。二度も目撃したデートチャレンジ。最初こそわけもわからず椿に怒ったが、二度目は女生徒に対する不快感しかなかった。
そして今、三度目は──猛烈に腹がたって仕方がない。
一体なんの権利があって椿の人権を無視し傷付けるのか。市ヶ谷椿は人形じゃない。おもちゃでもない。温かな血の流れる人間なのだ。
「──おいっ!」
群がる女生徒を押し退け、椿の手首を掴む。
「もう、こんなことに付き合うなって言っただろ!」
「……俺に関わるなと言ったはずだが?」
「うるさい! いいから来い!」
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