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椿の手を引き校門へと向かおうとした、その時。カキーン! と、小気味のいい音が響き渡り、椿を取り囲んでいた女生徒たちがキャッと悲鳴をあげて、ざざっと後ずさった。開けた視界に飛び込んでくる白球。スピードを保ったままの白球は椿に向かっている。
「危ない……っ!」
避けることも、キャッチすることも、すべてが間に合いそうもなく、葵は迷うことなく右手を椿の顔へと伸ばした。葵の手のひらが椿の頬に触れるのと、硬い白球が葵の手首を直撃するのとは、ほぼ同時だった。ゴツッと嫌な音がする。葵の手に当たった白球が地面へと落下し、ころころと転がっていく。
「いっ、てぇ……」
右手を押さえうずくまる葵のもとへ、野球部員が血相を変えて飛んでくる。
「大丈夫ですか!?」
「あー、だいじょ」
「大丈夫なわけないだろ! 打ったのはお前か!? どこに向かって打ってるんだ!」
「え……」
大丈夫だと答えようとした葵の言葉を遮り、椿が声を荒げ激昂している。怒鳴られた野球部員は怯えたように顔をひきつらせ、故意ではないにせよ椿と葵の視界を塞いでいた女生徒たちも顔を青くしている。
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