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「大体お前たちもなんだ! お前らが俺に群がってギャアギャア騒ぐから、俺とこいつの、」
「おい。もういいよ。そんな怒るなよ」
葵が立ち上がると、椿はハッとしたように口をつぐみ、黙って葵の左手を取った。
「来い。病院に行く」
「えっ? いいよ。そんな病院なんて大袈裟な」
「黙れ。骨にヒビでも入ってたらどうするんだ」
有無を言わさぬ力で引きずられ、首だけ後ろを振り返って「大丈夫だから気にすんなー」と野球部員に声をかける。椿はまっすぐ前を向いたまま、スマートフォンを耳に当て誰かに電話をかけているようだった。
「ああ、俺だ。すぐに車を」
校門につくと、すぐに黒塗りのベンツがすうっと音もなく横付けにされ、後部座席のドアがさっと開く。
「乗れ」
ありえない展開だった。電話一本でベンツがやってくるなんて、ドラマか漫画世界だけの話かと思っていた。しかも、椿が電話をかけてから一分と経っていない。つまり、市ヶ谷椿は毎日このベンツで送り迎えされているということなんだろう。
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