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椿に背を押され仕方なくベンツに乗り込む。ふかふかのシートにちんまりとおさまる葵の隣へ、椿が不機嫌そうな顔でどさっと乗り込んでくる。
「病院へ行ってくれ」
「篠宮総合で宜しいですか?」
「ああ」
「かしこまりました」
運転手との短い会話を聞き、改めて椿は市ヶ谷家の『お坊ちゃん』なのだと葵は認めざるをえない。けれど、椿の横顔は今も怒っている。腕を組み時おりイライラと足を揺すってさえいる。葵はそれが可笑しくて、そして、うれしくて堪らなかった。
「……なにをへらへら笑ってる。頭も打ったか?」
「だって、お前怒ってんじゃん。今まで俺がなにを言っても、デートを申し込んでくる女の子に対しても怒らなかったくせに、今すげえ怒ってるしイライラしてる」
「……お前のバカさ加減に呆れてるだけだ。お前の位置なら、あのまま動かずにいてもボールは当たらなかったはずだ」
「なに言ってんだよ。俺がああしなきゃ、ボールはお前の顔に当たってたぞ。硬球ナメんなよ。目にでも当たったら大変じゃんか」
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